金利が上昇すると株価はどうなる?長期金利の動向と日米の金融政策について解説

 

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米10年債利回りの急騰を受け、今年(2021年)の2~3月にかけて米国株式市場は不安定になりました。

とくにハイテク株比率の高いナスダック総合株価指数は大幅に下落。

4月に入って過去最高値を更新しているNYダウや、S&P500種株価指数などに比べて出遅れ感が目立ちます。

今回は米金利が上昇すると株式市場はどうなるのか、日米の金融政策が株価にどのような影響を与えるのかについて解説します。

金利と株価の関係

金利と株価には関係性があります。

通常、金利が上昇したときは株価が下落し、金利が下落したときは株価が上昇する傾向にあるのです。

金利が上昇すると借入コストが増えるため、企業は設備投資の縮小を行います。

また、住宅ローン金利が上昇すると個人は住宅購入を見送る可能性が高くなり、関連企業の業績悪化にもつながります。

以上のような理由から景気が悪化し、株価が下落する傾向にあるのです。

ただし、理由はそれだけではありません。

金利が低いと債券に投資しても少しの金利しか得られないため、債券への投資は控えられ、株式に資金が向かいやすくなります。

一方、金利が上昇すると債券へ投資する魅力が高まるため、リスクのある株式よりも債券に投資した方がいいと判断する投資家が増え、株式は売られる傾向にあるのです。

金利上昇と株高が同時に進む場合もある

しかしながら、景気が良い場合には金利上昇と株高が同時に進むこともあります。

景気が良ければ、金利水準が過熱していても資金調達ニーズの高まりは継続し、企業業績の向上に期待が高まるからです。

企業業績改善によって債券から株式に資金が移り、金利上昇(債券価格下落)と株高が同時に進みます。

通常は「金利上昇=株安」となりますが、景気の状態によっては「金利上昇=株高」となる局面もあるため、見極めが大切になります。

2月~3月にかけての米国株式市場の調整は長期金利の急上昇が原因

今年の2月から3月にかけて米国株式市場が調整したのは、米長期金利の上昇が急ピッチだったからです。

長期金利の指標となる米10年債利回りは2月1日に1.1%でしたが、3月にかけて1.7%台まで急騰しました。

株式市場は金利水準よりも、金利上昇のスピードに身構えていたのです。

ただ、3月後半からは1.7%前後で落ちついた動きをしており、4月に入ってからNYダウやS&P500種株価指数は過去最高値を更新しています。

どの程度の水準まで金利が上昇したら、再び株式市場は警戒を強めるのでしょうか。

Bank of Americaが3月5~11日に行った調査によると「米10年債利回りが2%に上昇すると、株価は10%の調整が起こる」と投資家の4割が回答しています。

心理的な節目である米10年債利回り2%が、今後も意識される展開が続くでしょう。

国債金利の決まり方

株式市場に大きな影響を与える国債(主に米10年債)の金利ですが、どのように決まっているのでしょうか。

国債金利は様々な要因で決まりますが、主に経済状況と需給の2つが重要です。

経済状況

景気が良くなると企業や家計は高い金利を払ってでもお金を借り、設備投資や消費を行おうとします。

国全体で資金需要が高まり、金利に上昇圧力がかかるのです。

そして中央銀行(FRBや日銀など)の政策金利(短期金利)も将来の利上げが意識され、国債金利も上昇しやすくなります。

需給

需給の1つは政府です。

政府が国債を大量に発行すると信用や需給が崩れ、金利は上昇しやすくなります。

また、米連邦準備制度理事会(FRB)や日銀などの中央銀行も国債を買っています。

政府が大量に国債を発行しても、同じ金額を中央銀行が購入すれば、国債の需給への影響を抑えられるのです。

国債の指標は10年物です。

通常、長期金利の動向を見るには10年債をチェックします。

米国の金融政策と株価

米10年債利回りが上昇している背景には「テーパリング」があります。

FRBは新型コロナウイルスの影響から金融市場や経済をサポートするために大規模な金融緩和を行っています。

通常の金融緩和は政策金利を引き下げますが、政策金利がゼロ水準にあり、これ以上引き下げられないというときは「量的緩和」を行うのです。

量的緩和では、国債や住宅ローン担保証券(MBS)などの金融資産を中央銀行が買うことで、市中への資金供給を増やし、景気を浮上させることを狙います。

経済が回復すれば中央銀行は量的緩和を縮小し、金融緩和の正常化を行います。 これが「テーパリング」と呼ばれるものです。

リーマンショック後のテーパリング

前回テーパリングが行われたのは2014年でした。

2008年のリーマンショックでFRBの政策金利はゼロ水準となり、追加の緩和政策として国債などの資産購入を行いました。

しかし、2013年5月にバーナンキFRB議長がテーパリング実施を示唆すると、米国債の利回りは急上昇しました。

さらに6月19日の米連邦公開市場委員会(FOMC)の後、バーナンキFRB議長がテーパリングについて踏み込んだ発言をするとマーケットは混乱。

翌20日の1日で株式市場から1兆ドルの資産が吹き飛んだといわれています(バーナンキ・ショック)。

コロナ禍でのテーパリングのタイミング

FRBが今回のコロナ禍でのテーパリングの実施タイミングを決めることは、前回のリーマンショック時と比べて非常に困難だといえます。

新型コロナウイルスの収束時期を見極めることは難しいことや、今後の景気回復はバイデン政権による追加経済対策の影響も大きいからです。

また、テーパリングの可能性に言及すると、2013年のように金融市場に混乱が広がる恐れもあります。

コロナ禍でのテーパリングに関しては、FRBと市場参加者の間で慎重な対話が必要になるでしょう。

FRBのフォワード・ガイダンスをチェックする

パウエルFRB議長は、新型コロナウイルスの感染拡大により景気動向は不透明で「テーパリングは時期尚早だ」と繰り返し述べています。

また今後の動向について、FRBでは「フォワード・ガイダンス(将来の指針)」を発表しています。

フォワード・ガイダンスでは、今回の大規模な金融緩和は「最大雇用といえる状況に達し、物価が2%をやや上回るまで続ける」と表明しているのです。

金融緩和の修正には、テーパリングだけでなく政策金利の利上げもあります。

利上げに関しては、2023年までゼロ金利を維持するとしています。

そして、量的緩和の資産購入に関しては「完全雇用と物価安定に近づくまで継続」との指針をだしているのです。

日本の金融政策と株価

日本の金融政策と株価について説明します。

日銀の金融政策と株価に与える影響

日本の中央銀行である日銀も量的緩和策を行っています。

2013年3月に積極的な金融緩和論者で知られた黒田東彦氏が日銀総裁になると、2%の物価目標を2年程度達成するための「量的・質的金融緩和(黒田バズーカ)」が導入されました。

そして、期間の長い国債の買い入れに加え、上場投資信託(ETF)や不動産投資信託(REIT)などのリスク資産の購入も行っています。

コロナ禍での日銀の政策

日銀は2%の物価安定目標を掲げていますが、コロナ禍で経済活動は低迷しており、物価の下押し圧力となっています。

黒田総裁は2023年4月に任期満了を迎えますが、それまでに2%の目標を達成することは難しい状況です。

ETFの購入

日銀の政策で株式市場に大きな影響を与えているのが、ETFの購入です。

日銀のETF購入は原則、年間6兆円です。

そして2020年3月のコロナ禍による株価急落局面で上限が年間12兆円に設定されました。

しかし、日経平均株価が3万円を回復するなど、株式市場が30年ぶりの高値水準になるなか、日銀は年間6兆円の買い入れ目標を取り下げました。

金融政策を担う中央銀行が株式市場で資産を購入しているのは日銀だけです。

日銀のETF購入が株式市場を下支えしてきたことは間違いありませんが、株価が上昇基調を強めるなか、その必要性が問われています。

今後、ETFの購入額をどうするのかに市場関係者は注目しています。

ETFの購入額を減らすことになれば、株式市場にはマイナスの影響となるでしょう。

金利上昇で上がる株・下がる株

米国の金利上昇により、株価の下落が目立ったのがハイテク株です。

債券と株式を比較するとき「株式の益回り」を見ます。

株式の益回りとは、1株当たり税引き利益(1株当たり純利益)を株価で割ったものです。

これはPER(株価収益率)の逆数(1/PER)となっており、株式投資に利回りの概念を取り入れたものになります。

たとえばPERが20倍だと益回りは5%(1/20)となり、PERが50倍だと益回りは2%(1/100)になります。

ハイテク株はPERが高いことも多く、たとえばPERが100倍だと益回りは1%しかありません。

金利が上昇する局面では、益回りが低いハイテク株よりもリスクの低い債券を選択する投資家が増えるため、相対的な割高感が意識されやすいハイテク株は売られる傾向にあるのです。

一方、鉄鋼や機械、化学といった景気敏感株は、金利上昇局面では上がりやすい傾向にあります。

益回りが高く、金利上昇局面でも利回りの魅力が薄れないことや、金利上昇局面では景気も回復していることが多いからです。

また金利が上昇するとお金を貸している銀行も業績の向上が見込まれます。

そのため、金利上昇局面では銀行株も上がりやすい傾向にあります。

まとめ

金利上昇は株価に大きな影響を与えます。

とくに世界の株式市場に大きな影響を与える米国の長期金利の行方は注目です。

また、金利動向だけでなくFRBや日銀など中央銀行の金融政策も株式市場に大きな影響を与えるため、注意が必要でしょう。


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