利回りとは?不動産投資や太陽光発電投資の表面利回りと実質利回りの違いを解説
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資産運用をしていく上で、利回りについて知ることは非常に重要です。
利回りについて、なんとなくわかっているつもりでも、利回りと利率が混同していたり、グロス利回り、ネット利回り、IRRについて正しい意味が分からなくなる方も少なくありません。
今回は投資家として知っておきたい利回りの基礎知識について解説します。
- 利回りとは、投資金額に対する収益の割合
- 利回りの収益には、「保有中に得られる収益」だけではなく、「売却損益」も含む
- ネット利回りを計算することが重要
1.そもそも利回りとは?
利回りとは、投資金額に対する収益の割合のことをいいます。
この収益には、「利子も含めた保有中に得られる収益」だけではなく、投資商品を売却した時の「売却損益」も含みます。
通常は、1年間の年利回りを「利回り」と呼んでいます。
1-1.インカムゲインとキャピタル損益
インカムゲイン
保有中の収益のことをインカムゲインといいます。
たとえば、株式では配当金、債券では利子、不動産では家賃収入、太陽光発電では売電収入がインカムゲインに当たり、資産を保有し続けることで、継続的な収入が期待できます。
キャピタル損益
売却損益のことをキャピタル損益(利益をキャピタルゲイン、損失をキャピタルロス)といいます。
1-2.利回りと利率の違いとは?
一般的に、利率は、債券や預金に対して使われることばです。通常は、1年間の年利率を利率(表面利率)といい、額面金額に対し毎年受け取る利子の割合のことです。
利率とは
額面金額に対し毎年受け取る利子の割合
利回りとは
投資金額に対する年単位の収益(利子も含めたインカムゲイン+キャピタル損益)の割合
ファンド(投資信託や投資型クラウドファンディング)では、年単位の収益を「分配金」といいます。
分配金は、ファンドの運用期間を通じて運用会社の判断で支払われます。この分配金には、収益だけではなく、元本の返戻金(出資の払戻金)が含まれていることもありますので、注意が必要です。
2.不動産投資の利回り
先ほど、(年)利回りとは、投資金額に対する年単位の収益(利子も含めたインカムゲイン+キャピタル損益)の割合のことだと説明しました。
不動産の場合を考えてみましょう。
不動産(土地建物)の価格が1億円、年間の家賃収入が1000万円とします。
この不動産を5年間保有した後に、1億円(取得価格と同じ)で売却した場合の利回りはどうなるでしょうか。
利回りは、( 年単位の収益 × 運用期間 + キャピタル損益 ) ÷ 投資金額 ÷ 運用期間 ですから、次のような計算になります。
( 1000万円 × 5年 + 0円 ) ÷ 1億円 ÷ 5年 × 100(%) = 10%
この場合の利回りは10%となります。
それでは、5年間保有した後に、9000万円(1000万円のキャピタルロス)で売却した場合の利回りはどうなるでしょうか。
先ほどと同様の計算を行うと、次のような計算になります。
( 1000万円 × 5年 - 1000万円 ) ÷ 1億円 ÷ 5年 × 100(%) = 8%
この場合の利回りは8%となります。
2-1.表面利回り(グロス利回り)
本来は、前述したように、キャピタル損益を含めて利回りを計算する必要があります。
ですが、不動産物件を販売する際に、売主が自身にとって都合のいいようにキャピタル損益を入れて、利回りを提示するとどうなるでしょうか。
このとき、キャピタルゲインを多く見積もるというインセンティブが働きやすくなるといえます。
キャピタルゲインが想定通り得られない場合、売主が表示した利回りと(買主の)将来の利回りに差が出てしまう可能性もあります。
そのため、不動産投資の利回り表示には、表面利回り(グロス利回り)が多く用いられています。
「gross」には、(控除する前の)全体の、おおまかなという意味があります。
それでは、表面利回り(グロス利回り)はどのように計算するのでしょうか。
表面利回り(グロス利回り) = 年間家賃収入 ÷ 投資金額 × 100(%)
年間家賃収入が1000万円、投資金額が1億円の表面利回りは10%となります。
表面利回りで注意していただきたいことがあります。それは、一般的に表面利回りが利用される場面では、その時点での入居率での家賃収入ではなく、満室想定の家賃収入が使用されている点です。
総潜在収入(GPI:Gross Potential Income)
このとき、満室想定の賃料のことを総潜在収入(GPI:Gross Potential Income)といいます。
2-2.ネット利回り(実質利回り)
ネット利回りとは、不動産収入から不動産経営にかかる費用を考慮した、より現実的な利回りのことをいいます。
表面利回りでは、年間の家賃収入を投資金額で割って求めていましたが、実際に不動産賃貸業を始める場合、年間の家賃収入の中からさまざまな経費を支払う必要があります。
また、不動産を購入する際には、不動産価格だけではなく、手数料や登記費用等の諸費用がかかります。
ネット利回りのことを実質利回や「NOI:Net Operating Income(=営業純収益や純収益)」の略として、「NOI利回り」ともいいます。
「家賃を手に入れるためにかかった費用を差し引いて、実質的に手にすることができる利益」これがNOIの定義です。
運営費(OPEX:Operating Expense)
運営費(OPEX)とは、年間に必要なランニングコストのことです。
管理費の他に、固定資産税・都市計画税といった税金、共用部分の水道光熱費、清掃、メンテナンスといった維持費や火災保険料などがあります。
実効総収入(EGI:Effective Gross Income)
ネット(NOI)利回りでは、年間の家賃収入は、空室率を考慮して考えます。
空室率を考慮した賃料収入のことを実効総収入(EGI:Effective Gross Income)と呼びます。
ネット利回り(NOI利回り)の計算
減価償却費のような支出を伴わない費用、支払利息などの金融費用や修繕費の積み立てなどはNOIを計算するときには計算から除外します。
つまり、不動産投資のNOIは企業価値評価の指標で営業キャッシュフローに相当するEBITDAと類似しています。
ネット(NOI)利回り = (年間家賃収入 - 年間運営費) ÷ (投資金額 + 諸費用) × 100(%)
満室想定の家賃収入が1000万円、平均空室率が10%(入居率90%)、運営経費率が満室時家賃収入の30%、不動産価格1億800万円(諸費用含)の場合、次のような計算になります。
空室率10%のときの実効総収入(EGI) = 1000万円 × 90% = 900万円
運営費(OPEX) = 1000万円 × 30% = 300万円
ネット利回り = (900万円 - 300万円) ÷ 1億800万円 × 100(%) ≒ 5.6%
このように、表面利回りでは10%だったものが、ネット(NOI)利回りでは約5.6%となりました。
不動産投資をする際は、最低限ネット(NOI)利回りで考えることができるようになる必要があります。
キャップレート
また、不動産投資ではキャップレート(Capitalization Rate)ということばもあり、「収益還元率」や「還元利回り」などとも呼びます。
キャップレートは対象の不動産が生み出すNOIを、不動産価格で割り戻すことで算出します。つまり、キャップレートとは、NOI利回りのことを指します。
筆者はついつい、ネット利回りやNOI利回りではなく、キャップレートということばを多用してしまいます。
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「キャップレートはどのくらいでお考えですか?」と聞かれたら、NOI利回りのことを尋ねられているとお考えください。
NCF(Net Cash Flow)
NOIから資本的支出(CAPEX)もあわせて差し引いたものがNCF(Net Cash Flow)といいます。
不動産鑑定評価に当たって収益還元法を用いるときには、このNCFをベースにすることが多いです。
税引前キャッシュフロー(BTCF:Before Tax Cash Flow)
税引前キャッシュフロー(BTCF) は、「純収益(NOI)- 年間負債支払額(ADS:ADS:Annual Debt Service)」で計算します。
税引後キャッシュフロー(ATCF:After Tax Cash Flow)
筆者はキャッシュフローを計算するにあたり、個人であれば所得税、法人であれば法人税も考慮した税引後キャッシュフロー(ATCF)を重視するべきであると提唱しています。
税引後キャッシュフロー(ATCF)は、「税引前キャッシュフロー(BTCF) - 税(Tax)」で計算します。
借入金の元金返済は経費にならない
不動産賃貸業をするにあたり、多くの場合、銀行借入によってレバレッジを効かせます。
当然のことですが、借入金の元金返済は、経費として認められません。(利息は経費となります。)
不動産投資は、建物の減価償却の期間が長く(新築RC造であれば47年)、土地は減価償却できないことから、借入を行った場合、年間の減価償却費より元金返済額が多くなり、賃貸運用期間中のキャッシュフローが厳しくなってしまうことも多々あります。
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元利金の返済をし、所得税/法人税を支払った後のキャッシュフローをよく考えておかないと、実際に不動産賃貸事業を開始した後に、あれ?キャッシュフローがマイナスになっている?「こんなはずではなかったのに・・・」ということが起こりますので注意が必要です。
2-3.IRRとは
IRRとは、将来に得られるお金の価値を現在の価値に置きなおして計算します。IRRについては、説明が長くなりますので、次回に解説したいと思います。
2020.7.28にIRRについての記事を公開しました。関連記事をお読みください。
3.太陽光発電投資の利回り
太陽光発電の利回りの計算方法も不動産投資とよく似ています。
年間家賃収入が年間売電収入になり、一般的には表面利回りが用いられています。
太陽光発電投資(太陽光発電事業)を行う場合も、最低限NOI利回りで考えるべきです。
筆者は太陽光発電と不動産投資の大きな違いは、出口戦略にあると考えます。
不動産投資の場合
不動産の場合、新築から20年を経過してもRC造であれば、減価償却期間は47年であり、20年後でも建物の価値はある程度残り、土地の価値も残ります。20年後のことはわかりませんが、人口減少の少ない地域であれば、土地の価値が大きく変動しない可能性もあります。
そのため、20年後に物件を売却して出口をむかえることができます。
最初に利回りは、「利子も含めた保有中に得られる収益 + 売却損益」であるとご説明しました。
たとえば、満室想定の家賃収入が1000万円、家賃下落率が年間0.8%、平均空室率が10%(入居率90%)、運営経費率が満室時家賃収入の30%、不動産価格1億800万円(諸費用含)、20年間運用した後に5800万円で売却した場合、次のような計算になります。
20年間の家賃収入の合計は、約16695万円、20年間の運営費の合計は、約5565万円、キャピタルロスが5000万円となり、資本的支出は考慮せず、税引前で次のような計算になります。
(16695万円 - 5565万円 - 5000万円 ) ÷ 10800万円 ÷ 20年 × 100(%) = 2.8%
※上記数値はすべて想定値です。
太陽光発電投資の場合
一方、太陽光発電はどうでしょうか。
太陽光発電投資の場合、固定価格買取制度を利用することから、20年間で終了となります。
固定価格買取制度終了後のことがどうなるかわからないため、20年後に価値がゼロ(解体撤去して終了)として考えてみます。
420kWの太陽光発電の年間平均発電量が約476190kWh、調達単価が21円であれば、年間平均売電収入は約1000万円です。
投資金額が1億円であれば、表面利回りは10%となります。
発電出力が420kW、年間平均売電収入が1000万円、運営経費率が15%、年間の発電ロスが5%、劣化率が0.5%、投資金額1億円、20年間運営した後に解体撤去(解体費1万円/kW)の場合、次のような計算になります。
20年間の売電収入の合計は、約18124万円、20年間の運営費の合計は、約2861万円、解体撤去費が420万円、キャピタルロスが1億円となり、資本的支出は考慮せず、税引前で次のような計算になります。
(18124万円 - 2861万円 - 420万円 - 1億円 ) ÷ 1億円 ÷ 20年 × 100(%) = 2.4%
※上記数値はすべて想定値です。
不動産投資の場合、20年の運用期間であれば出口が売却になります。
不動産を売却することによって、投資金のすべてまたは一部が回収できます。(※RC造であれば50年以上使用でき、最後に建物を解体撤去して土地として売却することも考えられます。
その場合は、解体撤去までの家賃収入と土地の売却で投資金の回収を図る)
一方、太陽光発電は固定価格買取制度の期間中に投資金の回収を図ります。
※中古での売却も可能ではありますが、中古市場が整備されていないため、固定買取制度終了まで持ち切ることを前提としています。
太陽光発電で表面利回り10%、ネット利回り7.4%となっている場合、年間の利回りは、(収益利回り)2.4%+(投資金の回収)5%と考える必要があります。
4.太陽光発電ファンドの利回り
太陽光発電ファンドの場合、ファンドの営業者側で、太陽光発電事業にかかる経費やファンドの維持にかかる費用を負担し、残った利益を出資者に分配される仕組みが一般的です。
太陽光発電ファンドの場合、利回りではなく、分配率ということばが多く使われています。
また、分配金には、「収益の分配金」と「出資の払戻金」があります。
分配・配当額に元本の償還部分を含めて表示されている場合は、「収益の分配金」と「出資の払戻金」の金額をよく確認してください。
なお、匿名組合出資の場合、収益の分配金は雑所得として課税されますが、出資の返戻金は課税されません。
5.まとめ
利回りを考えるときに、数字がたくさん出てきてよくわからなくなるという方も多いかと思いますが、資産運用をしていく上で、ネット利回り(NOI)を正しく計算できるようになることは非常に重要なことです。
不動産や太陽光発電への投資には多額の資金が必要で、借入を行うことも多くあります。
投資をした後に、「こんなはずではなかった!」とならないためにも、不動産や太陽光発電に投資をする場合は、「事業」をおこなうことを理解して、事前にしっかりと事業計画をたてることが重要です。
また、近年、不動産や太陽光発電に投資をするのと同様の効果が得られる手法として、個人でも投資できる不動産ファンドや太陽光発電ファンドのサービスが出てきています。
借入をして「事業」をするのは難しいという方は、ファンドに投資をするという方法もひとつの手段です。