IRR(内部収益率)とは?1級FP技能士がIRRをわかりやすく解説
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IRRとはなにかご存じですか。
不動産投資や太陽光発電投資を調べているとIRRという指標がでてきます。
しかしIRRについて正しく理解している投資家は多くないのではないでしょうか。
IRRを理解するのに苦労する方は多くいます。そこで、ここでは、IRRについてわかりやすく説明したいと思います。
- お金には時間的な価値がある
- IRR(内部収益率)は投資判断に用いる指標のひとつ
IRR(内部収益率)とは?
IRRは投資判断をする上で重要な指標となります。
IRRを理解するのに苦労する理由に、調べると次のような説明がされていることに原因があります。
IRRとは、投資プロジェクトの正味現在価値(NPV)がゼロとなる割引率のことをいう。
ここで、通常であれば、正味現在価値(NPV)?、NPVがゼロとなる割引率?、割引率とはなんだろう?となるわけです。
そこで、一度、上記のことは忘れてください。
1.お金には時間的な価値がある
IRRをご説明する前に、お金の時間的な価値について説明します。
ここで質問です。
あなたならどちらを選びますか?
A.今すぐもらえる100万円B.1年後にもらえる100万円
この質問は、ほとんどすべての方がA.の「今すぐもらえる100万円」を選ぶのではないかと思います。
目の前の100万円と1年後の100万円では、価値が違うことは直感的に理解できると思います。
1-1.期待収益率とは
時間的な価値の説明の前に期待収益率について説明します。
それでは、次の質問です。
あなたがC.の1年後にもらえる〇〇〇万円を選択するとしたら、「〇〇〇万円」はいくらになりますか?(「今すぐにお金が必要だ!」という特別な事情はないものとします。)
A.今すぐもらえる100万円C.1年後にもらえる〇〇〇万円
この金額は人によって異なると思いますが、この情報だけでは決められないという方も多いのではないでしょうか。
最低限、その不確実性(リスク)はどの程度なのか等の情報は欲しいですよね。
C.は1年後に〇〇〇万円もらえる権利に対する投資で、100万円とC.の金額との差額は、投資の収益(期待収益)になります。
期待収益率
「 〇〇〇万円 ÷ ( 1 + r )^ 年数 = 100万円 」となるときの、「 r 」の値が期待収益率
※ ^ は「乗」を意味します。
1年後の〇〇〇万円が103万円であれば、期待収益率「 r 」は3%になります。
リスクプレミアム
一般的に、投資の不確実性(リスク)が高いほど、期待収益率は高くなり、不確実性(リスク)が低いほど、期待収益率は低くなります。
国債などの安全資産(リスクがゼロ、またはリスクが極めて小さい無リスク商品)の金利(リスクフリーレート=無リスク金利)と期待収益率との差をリスクプレミアムといいます。
「 期待収益率( r ) - リスクフリーレート = リスクプレミアム 」
投資の不確実性(リスク)が高いほど、リスクプレミアムも高くなりますが、その投資の不確実性(リスク)に対して、どの程度のリスクプレミアムを要求するかは、人によって異なります。
1-2.お金の時間的価値を計算するには割引率(期待収益率)を使う
ここまで、期待収益率と割引率について説明しましたが、ここから少し話が変わります。
あなたならどちらを選びますか?
A.今すぐもらえる100万円D.100年後にもらえる2000万円
この場合、100年後に自分自身は生きていないかもしれませんから、仮に100年後に確実に2000万円がもらえるとしても、A.の今すぐもらえる100万円を選ぶ方が多いのではないでしょうか。
このように、将来のお金の価値は、将来のお金になればなるほど小さくなっていきます。
つまり、お金には時間的な価値が存在するのです。
感覚的にはA.の今すぐもらえる100万円がいいと答える方が多いかもしれませんが、たとえば、永遠の命があり、寿命がない状態であれば(通常ではありえませんが)、どちらがよいといえるでしょうか?
より具体的に、どちらがよいかを考えるためには、将来のお金の価値を現在の価値に計算しなおす必要があります。
将来のお金の価値を、現在のお金の価値に計算しなおすために使う値を「割引率」といい、通常、割引率には、期待収益率が用いられます。
先ほどご説明しましたが、期待収益率とは「ある資産の運用により、獲得が期待できるリターン(収益)の平均値」のことをいい、「 r 」で表します。
割引率 = 期待収益率 = r
現在の価値に計算しなおす具体的な方法については後述します。
2.IRR(内部収益率)とは
さて、ここまで、お金には時間的な価値があり、お金の時間的な価値を計算するためには期待収益率(割引率)を使用すると説明しました。
ようやく、IRRの説明に入っていくのですが、IRRを説明する前に、複利運用について知っておく必要があります。
2-1.複利運用とは
元本と利息(収益)を合わせて運用することを「複利運用」といいます。
手元に100万円あって、1年間で3%の期待収益率があるとします。このとき、1年間で得られる収益は3万円です。
翌年、手元にあった100万円に加えて3万円の収益を足して再投資をした場合に「複利」になります。
複利の計算式は次の通りです。
※ ^ は「乗」を意味します。
3%の期待収益率で100万円を1年間複利運用した場合は、100万円 × ( 1 + 3% )^ 1 = 103万円
3%の期待収益率で100万円を2年間複利運用した場合は、100万円 × ( 1 + 3% )^ 2 = 106万900円
さて、先ほどの質問を思い出してください。
あなたならどちらを選びますか?
A.今すぐもらえる100万円D.100年後にもらえる2000万円
A.の今すぐもらえる100万円とD.の100年後の2000万円どちらがよいかを考える場合、A.の今すぐもらえる100万円をD.とは別の方法で運用して、100年後に2000万円超になるのであれば、D.よりA.を選択するほうがよいことになります。
ここでの運用は複利運用を考えます。
A.の今すぐもらえる100万円とD.の100年後の2000万円どちらがよいかを考えるときに、100万円を複利運用して、100年後に2000万円になる期待収益率(割引率)を計算してみましょう。
100万円を100年間複利運用した結果2000万円となる場合の計算式は以下の通りです。
100万円 × ( 1 + r )^ 100 = 2000万円
ここから、「 r 」の値を求めれば、期待収益率(割引率)がわかります。このときの期待収益率は3.041055791125・・・となり、≒ 3.04%(以後「約3.04%」を使用)です。
100万円を期待収益率 約3.04%で100年間複利運用すると、100年後には2000万円になります。
ですから、約3.04%以上の期待収益率で100年間複利運用ができるのであれば、A.の今すぐもらえる100万円を選択するほうがよいことになります。
2-2.現在価値とは
将来のお金は時間的価値がある分、現在のお金より価値が低いとご説明しました。
将来のお金の現在の価値を現在価値(PV:present value)といいます。
それでは、100年後の2000万円を現在価値(PV)に割り戻すにはどうしたらいいでしょうか。
100年後の2000万円の現在価値を求める計算式は以下の通りです。
2000万円 ÷ ( 1 + r )^ 100
r(割引率)が約3.04%のとき、100年後の2000万円の現在価値(PV)は100万円となります。
2-3.NPV(正味現在価値)とは
正味現在価値(NPV:Net Present Value)とは、投資する対象が生み出すキャッシュフローの現在価値の総和をいいます。
先ほど、100万円投資して、100年後に2000万円になる投資(20年後に2000万円のキャッシュフローが得られる投資)の場合、割引率が約3.04%のとき、PV(現在価値)は100万円と説明しました。
NPV(正味現在価値)は「 PV(現在価値) - 投資額 」で求めることができます。
先ほどのNPV(正味現在価値)を計算すると、PV(現在価値)100万円 - (投資額)100万円 = 0
割引率が約3.04%のとき、NPV(正味現在価値)は0(ゼロ)になります。
NPV(正味現在価値)>0(ゼロ)であれば投資をしていいというように判断します。
A.の今すぐもらえる100万円とD.の100年後の2000万円どちらがよいかを考えるときに、D.の100年後の2000万円「 PV(現在価値)>100万円 」「 NPV(正味現在価値)>0 」になるのであれば、D.を選択するほうがよいとなるわけです。なお、割引率が変化するとPV(現在価値)とNPV(正味現在価値)の値も変化します。
2-4.IRR(内部収益率)とは
さて、ここで最初にご説明した「IRRとは、投資プロジェクトの正味現在価値(NPV)がゼロとなる割引率のことをいう。」を思い出してください。
100万円投資して、100年後に2000万円のキャッシュフローを受け取る投資のNPV(正味現在価値)が0(ゼロ)になる割引率は約3.04%、100年後の2000万円のPV(現在価値)は100万円でした。
IRR(内部収益率)とは、NPV(正味現在価値)が0(ゼロ)になる割引率ですから、この例では、約3.04%がIRR(内部収益率)になります。
つまり、IRR(内部収益率)とは、投資した金額と、将来手に入るキャッシュフローの現在価値の総和が等しくなるときの割引率(期待収益率)のことを意味します。
3.なぜIRR(内部収益率)を使うのか
なぜ、IRR(内部収益率)を使うのでしょうか。
さて、ここで質問です。
100万円を投資して、3年間で合計130万円のキャッシュフローが得られる次のような投資Aと投資Bのふたつがあるとします。あなたならどちらを選びますか?
A.1年目に15万、2年目に8万、3年目に107万円D.1年目に10万、2年目に10万、3年目に110万円
初期投資 | 1年目 | 2年目 | 3年目 | |
投資A | -100万円 | 15万円 | 8万円 | 107万円 |
投資B | -100万円 | 10万円 | 10万円 | 110万円 |
投資Aと投資Bのどちらも投資金額は100万円です。3年間で得られるキャッシュフローの合計も130万円で同じです。
投資Aの利回りは、「(15万円 + 8万円 + 107万円 - 100万円)÷ 100万円 ÷ 3年 × 100(%)=10% 」
投資Bの利回りは、「(10万円 + 10万円 + 110万円 - 100万円)÷ 100万円 ÷ 3年 × 100(%)=10% 」
投資Aも投資Bも利回りは10%になります。
単純に利回りだけを比較するだけでは、どちらの投資がよいかわかりません。
お金には時間的な価値がありますから、将来得られるキャッシュフローに年毎の変動がある場合にIRR(内部収益率)という指標を比較します。
投資AのIRR(内部収益率)は10.26%、投資BのIRR(内部収益率)は10%となり、投資AのIRR(内部収益率)が高いため、Aの方がよい投資という判断をすることになるのです。
3-1.IRR(内部収益率)の計算方法
IRR(内部収益率)の計算は、投資金額(マイナスのキャッシュフロー)と将来キャッシュフローの現在価値の総和(すべての合計)が0(ゼロ)になるときの割引率( r )の値を求めることで計算できます。具体的には、次のような計算をします。
( 投資金額(マイナスキャッシュフロー) + 1年目のキャッシュフローの現在価値 + 2年目のキャッシュフローの現在価値 + 3年目のキャッシュフローの現在価値 + ・・・・ )が 0(ゼロ) になる時の割引率
投資A( -100万円 +(15万円 ÷(1+r)^ 1)+( 8万円 ÷(1+r)^ 2)+(107万円 ÷(1+r)^ 3))= 0
投資B( -100万円 +(10万円 ÷(1+r)^ 1)+(10万円 ÷(1+r)^ 2)+(110万円 ÷(1+r)^ 3))= 0
このときの割引率(期待収益率)「 r 」の値がIRR(内部収益率)となります。
投資AのIRR=10.26%
投資BのIRR=10%
IRR(内部収益率)は関数電卓か、Microsoft のOffice(Excel)のIRR関数を利用して計算できます。
IRR(内部収益率)がすべてではありませんので、投資判断をするときのひとつの指標として使用することにご注意ください。
4.まとめ
IRR(内部収益率)は、毎年の収益が変動する投資(不動産投資や太陽光発電投資)の投資判断によく使用される指標のひとつです。
個人が投資をするときにIRR(内部収益率)まで考えて投資をすることはややハードルが高いといえます。IRR(内部収益率)まで考えて投資をするのが難しいなと感じられる場合は、最低限、NOI(ネット利回り)の計算ができるようになるといいでしょう。
また、年間の予想がわりとはっきりしている投資信託や太陽光発電ファンドなどを試してみるのもよいかもしれません。