匿名組合と他の組合形式との違いは?投資家が知っておきたい基礎知識を解説
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太陽光発電事業等の事業型の投資ファンドや不動産投資ファンドでは、合同会社と匿名組合を組み合わせたGK-TKスキームが活用されています。
匿名組合は商法に基づくものであるところ、これと同様に組合形式のものとしては法律上、民法上の任意組合、投資事業有限責任組合(LPS)、有限責任事業組合(LLP)があります。
そこで、他の組合形式と匿名組合の違いはどのような点にあるのかを解説します。
- 民法上の任意組合では、出資者が無限責任を負う
- 投資事業有限責任組合(LPS)は、主にベンチャー企業への投資に活用される
- 有限責任事業組合(LLP)は、企業同士の合弁事業や研究開発など目的を問わず幅広く活用される
1.匿名組合の法的性質
GK-TKスキームにおいて投資家が投資ファンド(SPC)である合同会社(GK)に出資する場合、匿名組合出資という形式で投資を行います。
匿名組合は商法を根拠として組成される組合です。
匿名組合とは、投資家が営業者(GK-TKスキームにおけるGK)の営業のために出資し、投資家は営業者である合同会社(GK)が事業等への投資によって得た利益の分配を受けることを内容とする契約により成立する組合です。
匿名組合において特徴的なものは、匿名組合契約が投資家と営業者である合同会社(GK)との二者間での契約となる点です。
このため、複数の投資家が存在する場合においても、匿名組合出資者である投資家同士には相互に契約関係がないため他の投資家に関する情報は投資家の間で共有されません。
これが、「匿名」といわれる所以です。また、匿名組合の場合、投資家は出資額の範囲内でのみ責任を負う有限責任となります。
2.他の組合形式との比較
商法上の匿名組合のほかに、次のような組合形式が存在します。中には投資ファンドとして利用される組合もあります。
2-1.任意組合
商法上の匿名組合と比較的混同されやすいのが民法上の任意組合です。
日常用語として特に限定せず「組合」という場合には、任意組合を指していることが多いでしょう。
任意組合とは、各投資家がそれぞれ出資をして共同の事業を営むことを内容とする契約により成立する組合をいいます。
任意組合は営業の目的に限定がありません。このため、非営利事業だけでなく営利事業を営むこともできます。
例えば、映画製作委員会なども任意組合となっていることがあります。
組合員である投資家は、組合の財産を共有すると同時に組合の債務についても共有し、連帯して支払う立場となります。
また、組合の損益は各組合員の出資額に応じて直接組合員に帰属することになります。
匿名組合と任意組合の主要な違いは、以下の2点です。
- 任意組合では、出資者(組合員)が無限責任を負う
- 任意組合では、出資者(組合員)が相互に組合契約を締結する
特に重要なのは一点目です。匿名組合では、出資者の負う責任は有限責任でした。これに対し、任意組合では無限責任となっています。
したがって、組合が債権者に対して負う債務について組合の財産で弁済がされない場合には、投資家である各組合員が自己の出資額を超えて組合に代わり直接債権者に弁済をしなければならないことになります。
このような事態は投資においては通常想定されませんので、任意組合は基本的に投資ファンドになじまないものといえます。
二点目の出資者が相互に組合契約を締結するということが意味するのは、組合員である投資家が相互に誰が投資をしているのか知ることができるということです。
相互に人的関係を有しない複数の投資家が投資を行う場合には、投資家としては基本的に投資をしている事実自体を秘匿したいことが多いため、投資家間の匿名性を欠く任意組合は適さないといえます。
他方、投資家が1社のみである場合や共同出資する約束の元で投資をする場合には二点目の匿名性はそれほど大きな問題にはなりません。
2-2.投資事業有限責任組合
投資事業有限責任組合とは、投資事業有限責任組合契約に関する法律(LPS法)に基づき設立される組合です。LPS(Limited Partnership)と略されることもあります。
投資事業有限責任組合は、株式公開前のベンチャー企業等に対して投資するベンチャーキャピタル(VC)をはじめとするプライベートエクイティファンド(PEファンド)を組成する際に活用されています。
従前、ベンチャー企業等への投資においては民法上の任意組合が用いられていましたが、前述のとおり任意組合における投資家の無限責任がネックとなっていました。
そこで、ベンチャー企業への資金供給を促進することを目的として、一部の組合員の責任を有限責任とする特別の組合を組成できるようにするためLPS法が成立し、1998年11月に施行されました。
投資事業有限責任組合における出資者は、無限責任組合員GP(General Partner)と有限責任組合員LP(Limited Partner)の2種類が存在します。
無限責任組合員は、任意組合と同様に組合の負担する債務に関して連帯して無限責任を負います。
これに対し、有限責任組合員は匿名組合のように出資額を限度として責任を負う有限責任です。
有限責任組合員は出資のみを行い業務執行をしませんが、対外的に業務執行をすると誤認させるような行為があった場合には、誤認した者に対して無限責任を負うことがあります。
無限責任社員と有限責任社員となる資格には制限がないため、合同会社などの法人や、後で説明する有限責任事業組合(LLP)が無限責任社員となることもあります。
投資事業有限責任組合は、民法上の任意組合と異なり責任範囲が限定された有限責任社員が存在するため、組合の債権者を保護すべき必要性が任意組合より高いといえます。このため、次のような特別のルールが法定されています。
- 投資対象(組合の事業範囲)の制限
- 監査法人等の監査が必要
- 組合に関する登記が必要
第一に、投資事業有限責任組合は匿名組合や任意組合とは異なり、もっぱら投資ファンドとして活用することを目的とした組合です。
したがって、組合の事業の範囲は株式、新株予約権、新株予約権付社債、匿名組合の出資持分、信託受益権、知的財産権等の保有、および投資先企業への経営上のアドバイスといったベンチャー企業への投資のため必要な範囲に限定されています。
また、この制限により投資対象は株式会社が原則となっており、GK-TKスキームのように匿名組合出資を通じてSPCである合同会社へ出資する方法をのぞいて合同会社への出資はできません。
さらに、不動産の運用その他事業への投資に関しては知的財産権に関するものをのぞき信託受益権や匿名組合出資の形式でしか投資できないこととなります。
第二に、投資事業有限責任組合の無限責任社員は、毎事業年度ごとに貸借対照表・損益計算表書等を作成する必要があります。
また、これらについて公認会計士又は監査法人の監査を受けることが前提となっています。このため、投資事業有限責任組合の運営にはコストがかかるといえます。
第三に、匿名組合や任意組合は登記を必要としませんが、投資事業有限責任組合に関しては無限責任社員の氏名又は名称・住所、組合事務所の所在場所等について登記が必要です。
もっとも、有限責任組合員の氏名や住所に関しては登記が必要とされておらず投資家の匿名性は対外的には一応維持できます。
ただし、他の投資家との間で組合契約を締結するため、他の投資家に対しては匿名性を維持することはできません。
2-3.有限責任事業組合
有限責任事業組合は、2005年8月に施行された有限責任事業組合契約に関する法律(LLP法)により設立される組合です。
有限責任事業組合の略称であるLLPは、Limited Liability Partnershipの頭文字をとったものです。
LLPは元々イギリスやアメリカなど海外で広く活用されてきた事業体です。これを日本に持ち込んだのが有限責任事業組合といえます。
有限責任事業組合(LLP)は、前述の投資事業有限責任組合(LPS)と字面が似ているので混同されがちですが、投資事業有限責任組合(LPS)と異なり組合員は全員有限責任であることに大きな特徴があります。
また、民法上の任意組合や投資事業有限責任組合では、出資者と業務執行者を分けることができました。これに対して、有限責任事業組合は組合員全員が共同して事業をすることが想定されています。
法律上も、重要な意思決定は総組合員の同意が必要とされています。
以上からすれば、有限責任事業組合は株式会社と組合の中間的な存在ということができます。
このほか、有限責任事業組合は投資事業有限責任組合と異なり、事業目的が投資に限定されていません。
実際に有限責任事業組合が活用されている事例としては、企業同士の合弁(JV)事業や共同研究開発などがあり、バラエティに富んでいます。
ただし、公認会計士や弁護士などの業務を有限責任事業組合の事業として行うことはできません。
また、組合の債権者に不当な損害を与えるおそれがある業務もできないといった制限があります。
有限責任事業組合は、投資事業有限責任組合と同様に登記が必要となっています。
また、投資事業有限責任組合の場合は有限責任組合員の氏名や住所については登記事項ではありませんでしたが、有限責任事業組合ではすべての組合員の氏名や住所が登記事項になっています。
したがって、組合員として出資する限り対外的にも組合員であることを秘匿することができません。
この点は、匿名組合とも異なる点といえます。
3.まとめ
投資に活用されることのある組合形式を比較すると、以下の表のようになります。
匿名組合 | 任意組合 | 投資事業有限責任組合(LPS) | 有限責任事業組合(LLP) | |
根拠法 | 商法 | 民法 | LPS法 | LLP法 |
組合員の責任 | 有限責任 | 無限責任 | 無限責任 有限責任 |
有限責任 |
登記の要否 | 不要 | 不要 | 必要 | 必要 |
事業目的の制限 | なし | なし | あり | 原則なし |
これを見ると、投資家が有限責任を維持でき、なおかつ組成や運営にかかるコストを低減できるのは匿名組合ということになります。
また、そもそも投資事業有限責任組合は事業目的に制限があり、不動産や事業の投資に利用することは基本的に想定されていない制度です。
したがって、不動産や事業に対する投資ファンドでは匿名組合を活用したGK-TKスキームがよく利用されるのです。
ただし、ベンチャー企業などへ投資するファンドでは投資事業有限責任組合が利用されるなど、投資ファンドだからすべてGK-TKスキームというわけではありません。
投資対象によって適切なファンドの組成が異なることを理解しておくとよいでしょう。