SPC(特別目的会社)とは?投資家が知っておきたい基礎知識を解説
この記事の目次
投資ファンドについて調べているとSPC(特別目的会社)という用語を目にすることがあります。
SPCがどのようなものか正確に理解できている人は少ないのではないでしょうか。
この記事ではSPCとは何か、なぜSPCが投資に利用されるのかを解説します。
- SPCは、Special Purpose Companyの略称であり特別目的会社と呼ばれる
- SPCには、GK-TK、TMK、REITなど複数の種類がある
- SPCは、組成や運用に時間的・金銭的なコストがかかるというデメリットがある
1.SPC(特別目的会社)とは
SPC(特別目的会社)とは投資家のお金を集める箱であり、投資ファンドそのものを指します。
日本の投資ファンドで利用されるSPCにはいくつかの種類があり、仕組みもさまざまです。
1-1.SPCの意味
SPCとは、Special Purpose Companyの頭文字をとったもので、投資目的に限定して設立された会社です。和訳の「特別目的会社」と呼ぶこともあります。
1-2.TMK(特定目的会社)やSPVとの違い
SPCの種類の一つに特定目的会社(TMK)というものがあります。
特別目的会社(SPC)とは一文字異なるだけであり、しばしば混同されますので間違えないよう注意が必要です。
またSPCに類似した概念として、SPV(Special Purpose Vehicle)があります。
SPVもSPC同様に投資ファンドを指す用語であり、SPVのうち合同会社などの会社形態をとるものをSPCと呼んでいるのです。なお会社形態をとらないSPVとしては組合や信託等があります。
1-3.SPCの基本的役割
SPCは、投資において主に以下の役割を果たします。
- 投資家に証券を発行し出資を受け入れる
- 投資対象となる資産を保有する
- 資産の運用益を投資家に分配する
- 保有する資産を裏付けにして金融機関等から融資を受ける
不動産証券化等において投資対象となる資産の元所有者(オリジネーター)から譲渡を受けて、対象資産の運用から得られるキャッシュフローを裏付けに証券の発行や金融機関等からの借入れ等を行います。
ただし、不動産証券化の代表的なSPCであるGK-TKスキームでは、実物の不動産ではなく資産を信託受益権化したもの(不動産信託受益権)を保有します。
この場合、不動産登記簿に記載される形式上の不動産所有者は信託銀行となります。
投資ファンド(SPC)を投資に利用する場合、投資家はSPCの発行する証券(持分)を取得し、その取得の対価としてSPCに出資します。
投資ファンドのポイントは、投資家は資産に対して直接の投資をしない点です。
また投資ファンドは投資効率向上のために金融機関からの融資を受けることが通常です。不動産証券化等においてSPCが受ける融資は、SPCの種類により異なります。
1-4.SPCを組成する際の3つのポイント
投資ファンドとしてSPCを組成する際には、以下の3つのポイントがあります。
会社の事業目的の限定
SPCにおいては事業目的が限定されていることは重要です。SPCが投資と無関係の事業を行うと、SPCが想定外の債務を負って倒産するリスクが高まり、投資家にとって予期しない事態となるおそれがあるからです。
倒産隔離
倒産隔離とは、投資対象となる資産の元所有者(オリジネーター)などの関係者の倒産によって投資家や借入先である金融機関等へ影響が生じないようにする仕組みのことをいいます。
会社の事業目的の限定とも似ていますが、倒産隔離もまた投資家が予期しない損失を負担しないために不可欠の仕組みです。
二重課税の回避
二重課税の回避は、投資ファンド(SPC)においては必須の仕組みです。
投資ファンドが法人格を有する会社形態の場合、本来であれば資産運用による収益について法人税が課税されます。
しかし、投資ファンドの収益に課税されると、投資家は自身がSPCから受け取る分配金に対する課税に加えて、投資ファンドの課税についても実質的に税金を負担することになってしまうのです。
これを二重課税といいます。
二重課税が発生するのであれば、投資ファンドを組成せずに直接投資をした方がよいこととなり、投資ファンドは存在意義を失います。
このため、投資ファンドにおいては、ファンドの得る収益に対しての課税を回避できること、すなわち二重課税の回避が必要不可欠なのです。
1-5.SPCを利用する目的
投資ファンドにおいてSPCが利用される主要な目的は、上で説明した資産の元所有者(オリジネーター)の倒産等の影響を受けないようにすることに加え、運用益を投資家に分配しやすくすることにあります。
投資対象資産からのキャッシュフローを投資家へルール通りに分配するため一般的に次のような仕組みになっています。
- 投資家は、投資ファンド(SPC)に投資する際、SPCが発行する証券を取得。
- 投資ファンドが得た収益を投資家が保有する持分の割合に応じて配分。
2.SPCの種類
SPCには複数の種類があります。
以下では、代表的なSPCを4つ説明します。
2-1.GK-TKスキーム
非上場の投資ファンド(SPC)の中で、もっともよく利用されている仕組みがGK-TKスキームです。
GK-TKスキームでは、SPCを合同会社(GK)とし、投資家からの出資を匿名組合(TK)出資の形で受け入れます。
GK-TKスキームの詳細については、以下の関連記事で詳細に解説しています。
2-2.SPC法に基づくTMK
非上場の不動産投資ファンドでは、GK-TKスキーム以外にTMK(特定目的会社)が利用されることがあります。
TMKは、資産流動化法に基づき設立される法人です。
GK-TKにおけるSPCは投資以外の一般の事業会社にも利用される合同会社であるのに対し、TMKは投資のみを目的とする特別の法人であるという違いがあります。
2-3.REIT(投資法人)
REITについては、近年J-REIT(上場不動産投資信託)が話題に上がることが増えてきました。
株式などと同様に市場で気軽に売買ができることから、投資を検討したことがある方も多いのではないでしょうか。
REITは、投信法に基づき設立される投資法人をSPCとするものです。REITと呼ばれる仕組みは、上場不動産投資信託であるJ-REITのほかに、非上場のREIT(私募REIT)があります。
もっとも、私募REITは、一般個人では投資ができず、金融機関などの適格機関投資家に限定されていることが通常です。
2-4.ケイマンSPCなど
投資に詳しい方は「ケイマンSPC」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
以前はケイマン諸島など海外のタックスヘイブンにSPCを設立し、日本国内のSPCをケイマンSPCの子会社とするスキームを利用することがありました。
もっとも、ここでいうケイマンSPCは、投資ファンドとしてのSPCとは異なり倒産隔離を実現するために組み込まれたSPCに過ぎません。
ケイマンSPCを利用した投資ファンドでは、日本国内にあるSPCが投資ファンドとなります。
ただし、近年は海外でSPCを組成することにコストがかかることに加え、日本国内でも一般社団法人の活用によって倒産隔離の目的を達成できるようになったという理由で、新規に設立される投資ファンドにケイマンSPCが組み込まれる事例は減少しています。
3.不動産投資でSPCを利用するメリット
不動産投資においてSPCを利用するメリットとしては、大きく分けて2点あります。
第一に、SPCの利用により、上で説明したように資産の元の所有者(オリジネーター)の信用から切り離すことができます。
これによって、投資ファンドは、投資対象となる資産の価値のみを裏づけとした資金調達ができるため、結果として資金調達が容易になるのです。また投資家にとっても安全な投資が可能となるでしょう。
第二に、SPCを用いて投資対象となる資産をSPCの持分という形で証券化することによって、投資家は小口資金での投資が可能となります。
また投資家が投資するのはあくまでもSPCが発行する証券です。
このため、現物の不動産を投資家が直接保有することと比べて、面倒な手続を要することなく気軽に投資を始められるといえます。
4.不動産投資でSPCを利用するデメリット
不動産投資にSPCを利用することは当然ながらデメリットも存在します。
具体的には、SPCの組成自体に時間的・金銭的なコストがかかることです。
SPCは証券の発行を伴うため投資家保護の観点から、それぞれのSPCの種類に応じて金融商品取引法、資産流動化法(SPC法)、投信法などの規制の適用を受けます。
これらは、現物の不動産へ投資家が直接投資をする場合には受けない規制です。
法規制の適用対象となると、規制対応のための手間や外部の専門家に依頼するためのコストが上乗せされます。
SPCを組成した場合、関わる人も信託銀行、弁護士、会計士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など多岐にわたるのです。
単純に考えると、投資家がSPCから受け取る配当額は、規制対応に必要となるコストに相当する分減少します。
したがって、規制対応のため上乗せされるコストを勘案しても十分に利回りを維持できるような規模の大きい資産への投資でない限り、SPCを利用して投資をする意味がなくなってしまうでしょう。
5.まとめ
SPCと一言でいっても種類はさまざまです。SPCを利用することで、さまざまなメリットを享受することはできます。
ただし、どのような投資であってもSPCを組成した方がよいというわけではありません。
投資ファンド(SPC)への投資を検討している場合には、そのファンドがどのようなスキームであるか理解しておくと安心でしょう。