太陽光発電の出力抑制は対策が必要?出力抑制のルールと実情を徹底解説【2020年版】
この記事の目次
太陽光発電は、FIT制度によって長期間・固定価格での売電収入を安定的に得られる点が魅力の1つでしょう。
そんな太陽光発電の天敵ともいえる制度が、「出力抑制」です。出力抑制が頻発すれば、太陽光発電の収益性に大きな影響を与えかねませんが、実際のところ対策は必要なのでしょうか。
ここでは、太陽光発電の出力抑制について、概要からルールなどの基本情報はもちろん、その実情から対策の必要性までまんべんなく解説していきます。
1.太陽光発電の出力抑制とは?
そもそも太陽光発電の出力抑制とは、どのような制度なのでしょうか。まずは、出力抑制で何が行われ、そして何のために実施されるのか、基本から解説を始めていきます。
1-1.太陽光発電の出力抑制=電力会社からの売電ストップ命令
出力抑制は、太陽光発電の売電にストップがかかることを意味します。出力抑制が実施されると、電力会社から太陽光発電に売電ストップもしくは売電量抑制の命令が数時間単位で下るのです。
つまり、太陽光発電がいくら発電しようとも、出力抑制が要請されている間は売電ができません。
そのため、出力抑制が実施されると、その時間分だけ売電収入が減少することになります。なお、電力会社との接続契約は出力抑制への同意が前提なので、電力会社に売電を行うなら出力抑制は拒否できません。
1-2.出力抑制は電力供給過多を調整するための制度
出力抑制の目的は、太陽光発電からの電力供給過多を調整して、電力の需給バランスを保つためです。
電力は原則として、一般家庭や工場などで消費する需要量と、発電所で作られる供給量がエリア内で同時同量でなければなりせん。
この電力の需給バランスが崩れると、電力会社は安定的な電力供給が難しくなってしまいます。具体的には、電気設備の不調や故障、最悪の場合はブラックアウトなど大規模な停電に繋がってしまうのです。
そのため、電力会社は電力の需給バランスを、24時間365日体制で常に監視・予測・調整しています。
この需給バランスを調整する1つの方策として、出力抑制は実施されるのです。実際に、どのようなケースで出力抑制がかかるのかというと、エアコン使用頻度が減少する夏以外の電力消費量が少ない季節がイメージしやすいでしょう。
このような電力需要の少ない時期は、太陽光発電から大量に売電されてしまうと、電力供給過多で需給バランスが崩れてしまうのです。
電力会社は、このような予測に応じて太陽光発電に出力抑制をかけ、電力供給量を絞って需要量とバランスさせています。
電力は、人々の日常生活はもちろん、場合によっては大切な財産や人命を支えるのに不可欠な社会インフラとなっています。
電力会社の存在意義の1つでもある安定的な電力供給のために、出力抑制は必要な制度なのです。
1-3.出力抑制の順番は他の発電所→太陽光発電
ニュースで太陽光発電にばかりフォーカスされるので勘違いされている方も多いですが、出力抑制の対象は、太陽光発電だけではなく電力会社の有する発電所すべてです。
そして、優先給電ルールに基づいて、太陽光発電に出力抑制が働くのは他の発電所の後となっています。具体的な出力抑制の優先順位は、以下のとおりです。
- 火力、揚水発電
- 他地域への連系線による送電
- バイオマス発電
- 太陽光発電、風力発電
- 原子力、水力、地熱発電
太陽光発電に出力抑制が働くのは、火力や揚水、バイオマスなどの発電所の後で、太陽光発電ばかりに出力制御が働くようなことは決してありません。
逆に、電力会社は優先給電ルールを採用することで、太陽光発電を含めた再エネ電源を最大限活用できる体制を整えているのです。
優先順位の考え方は、発電量の調節しやすい火力などの調整電源として、天候に発電量を左右される太陽光発電の不安定さを補うものです。
また、原子力や水力、地熱などの発電所は、急な発電停止や再稼働に向いていないため、ベースロード電源として活用されています。
出所:資源エネルギー庁
このように出力制御は、太陽光発電など再生可能エネルギーの発電量を減らすための制度ではなく、できる限り最大限に活用するための枠組みなのです。
2.太陽光発電の出力抑制ルール
太陽光発電の出力抑制の概要がわかったところで、次に気になるのが出力抑制の実施方法と対象範囲でしょう。
ここでは、太陽光発電における出力抑制のルールについて詳しくみていきます。
2-1.太陽光発電の出力抑制の現行ルールは2つ
太陽光発電の出力抑制で採用されている現行ルールには、360時間ルールと指定ルールの2つがあります。
対象となる太陽光発電は、いずれのルールも住宅用を含む全ての太陽光発電です。
それぞれ、ルールの中身を確認していきましょう。
360時間ルール
360時間ルールは、無補償で出力抑制を行える上限期間が年間360時間までに設定された、出力抑制の基本ルールです。
無補償とは、出力抑制によって太陽光発電で本来得られるはずだった売電収入の損失を、文字どおり電力会社が補償する必要のないことを意味しています。360時間ルールでは、電力会社から太陽光発電に対して時間単位の出力抑制を要請されます。
指定ルール
指定ルールは、上記の360時間ルールのような出力抑制期間の上限がない無補償・無制限のルールです。
この指定ルールは、国から「指定電気事業者制度」に基づいて指定された地域、つまり特定の電力会社のみに適用が許可されています。
その電力会社とは、接続申込みが接続可能量の上限を超えた地域であり、接続可能量を超過した時点から接続申込みをした太陽光発電が対象です。
旧ルール(30日ルール)
現行ルールではありませんが、2015年1月26日の再エネ特措法改定以前に太陽光発電の接続申込みを行った方は、30日ルールという旧ルールが適用されています。
30日ルールでは、無補償で出力抑制を行える上限期間が、年360時間ではなく30日となっていました。
また、30日ルールと360時間ルールでは、上限時間に加えて、出力抑制の要請が時間単位ではなく1日単位となっているのも異なる点です。
360時間ルールでは対象日のうち、出力抑制のかかる時間は数時間ですが、30日ルールでは出力抑制が対象日丸一日働くことになります。
2-2.出力抑制ルールは電力会社と太陽光発電所の規模ごとに異なる
現行の2つの出力抑制ルールは、電力会社の管轄エリアと太陽光発電所の容量によって区分けがされています。
まとめると、以下の表のとおりです。
10kW未満 | 10kW以上50kW未満 | 50kW以上 | |
東京電力 中部電力 関西電力 |
出力抑制の対象外 | 360時間ルール | |
北海道電力 東北電力 北陸電力 中国電力 四国電力 九州電力 沖縄電力 |
指定ルール (優先的な取り扱い) ※10kW以上の出力抑制実施後に行う |
指定ルール |
大きく分けると2パターンで、1つが50kW未満が出力抑制対象外で50kW以上が360時間ルールとなる東京電力、中部電力、関西電力の3電力です。この3電力は都市部で人口も多いため、太陽光発電の電力供給を十分さばけるだけの電力需要があります。
一方でそれ以外の7電力は、基本的にすべての太陽光発電に無補償・無制限の指定ルールが適用されます。
ただし、10kW未満の住宅用太陽光発電については、指定ルールが適用されるものの優先的な取扱いとなっており、10kW以上の太陽光発電よりも後に実施される決まりです。
そのため、実質的には当面のところ出力抑制はかからないとみられています。
2-3.出力抑制エリアでは対応機器+オンライン化が必須
出力抑制の対象エリアでは、出力抑制を遠隔で自動制御するため、出力抑制対応機器の設置とオンライン化が義務付けられています。
出力抑制は、複数の太陽光発電所に対して抑制割合や時間を命令しますが、遠隔でも確実なインターネット経由の自動化が必要なためです。
出力抑制対応機器には、広義のパワコンと狭義のパワコンの2種類があり、次のように定義されています。
- 狭義のパワコン:制御機能付きパワコン
- 広義のパワコン:制御機能付きパワコン+出力制御ユニット
出力抑制をオンラインで自動制御するためには、広義のパワコンまで導入しなければなりません。
出力制御ユニットが電力会社からインターネット経由で送信された出力抑制の信号を受け取り、制御機能付きパワコンへ命令を下すことで出力抑制を行います。
ただし、旧ルールにおいては出力抑制の制度過渡期のタイミングがあり、電力会社要請後の対応機器導入とオンライン化が認められていました。
しかし、国と電力会社が出力抑制のあるべき姿を議論する中で、旧ルールのオンライン化切替の検討もなされているため、今後その要請が来る可能性については心に留めておきましょう。
3.太陽光発電の出力抑制に対策は必要?
出力抑制は、太陽光発電の売電不能で収入損失につながるため、収益面から決して無視できません。
実際に出力抑制の影響がどの程度あるのか、出力抑制の実施実績と今後の見通しから、対策を講じる必要性について考えていきましょう。
3-1.太陽光発電への出力抑制実施は九州電力のみ
出力抑制の制度がスタートしてから2020年8月現在までで、太陽光発電へ出力抑制が実施されたのは九州電力1社のみです。
それ以外の9電力は、メガソーラーなど大規模太陽光発電に対しても、いまだ出力抑制の実施実績がありません。
では、九州電力ではどの程度の頻度で出力抑制が実施されているのか、その実績を確認していきましょう。
九州電力では、2018年10月に初めて出力抑制を実施してから、2020年7月20日までの約2年の間に、九州本土で合計140回の出力抑制の実施実績があります。
当初は、電力の需要量が少ない離島が中心でしたが、近年では九州本土でも普通に出力抑制が行われるようになっています。
各年度ごとの出力抑制の実施回数をまとめると、以下のとおりです。
2018年度 | 2019年度 | 2020年度 | |
出力抑制実施回数 | 26回 (10月~3月) |
74回 | 40回 (4月~7月20日) |
表からみて取れるように、出力抑制の実施回数は決して少ない数ではありません。
単純平均すると2019年度では月に6回以上、つまり週に1回以上は出力抑制が実施されている計算になります。
ただ、この1回1回の出力抑制がすべての太陽光発電所に対してかかっているわけではありません。
実際には、できる限り不公平性のないよう、順番に出力抑制がかけられています。
2019年度であれば、1つの太陽光発電所に対する出力抑制回数は、オフライン制御が年23〜24回、オンライン制御が15〜16回でした。このとき、出力抑制による太陽光発電の売電損失はどの程度になるのでしょうか。
九州電力で試算された、2019年度の再エネへの出力抑制による逸失電力量比率4.1%をもとに考えてみましょう。
逸失電力量比率は、出力抑制によって1年の発電量のうち、4.1%が売電ロスになっていることを意味しています。
つまり、簡単な計算にはなりますが、全体の実施回数74回から考えると1年の発電量のうち出力抑制で損失となる割合は次のとおりです。
- オフライン制御:約1.3%
- オンライン制御:約0.9%
約1%前後というこの売電損失の割合が、多いと捉えるか少ないと捉えるかによって、出力抑制対策の必要性の考え方は変わってくるでしょう。
3-2.今後の出力抑制の見通しと電力会社の取組み
現時点で、出力抑制の実績がある電力会社は九州電力のみですが、他の電力会社でも徐々に出力抑制実施が現実的なものになってきています。
2019年には四国電力、2020年には沖縄電力が、ゴールデンウィーク近辺での出力抑制の可能性を事前に表明していました。
実際にはどちらも出力抑制の実施には至りませんでしたが、それでも四国電力では電力需要に対する太陽光発電の供給率が、出力抑制のかかる一歩手前の90%にまで達しました。
また、2020年4月には新型コロナウイルスによる電力需要源も影響したこともあって、当面は出力抑制不要としていた中国電力も、出力抑制へ本格的に動き出したと中国新聞が報じています。
加えて中部電力も、2020年3月に再エネ導入量の増加に伴って出力抑制実施の準備に入ると発表しています。
このように、出力抑制実施の見通しが明らかになる中、各電力会社は並行して出力抑制の低減に向けた積極的な取り組みを進めています。
具体的には、地域間連系線を活用した電力送電や、オンライン制御の推奨といった施策が挙げられるでしょう。
地域間連系線の活用は、エリア内で消費しきれない太陽光発電の電力を、電力需要の大きいエリアへ送電することでエリア内の供給量を調整します。
また、オンライン制御を増やすことは、オフライン制御の予測誤差を低減することで、太陽光発電の出力抑制低減に繋げるのです。
以上から、出力抑制は各電力会社で実施される状況になっているものの、低減に向けた積極的な取り組みによりいまだ実施されてはいません。
3-3.太陽光発電の出力抑制対策は出力抑制保険
出力抑制の有効な対策が、出力抑制保険への加入でしょう。
出力抑制保険は、出力抑制によって太陽光発電の売電収入損失が発生した場合、その損失金額の一部もしくは全額を補填してくれるサービスです。しかし、出力抑制保険は次の3つの理由から、九州電力エリア以外ではそこまで現時点における必要性は高くないでしょう。
- 出力抑制の実施実績がない
- 電力会社が出力抑制低減に向けて積極的に取り組んでいる
- 出力抑制保険に免責時間や免責制御率がある
3つ目の免責時間や免責制御率は、出力抑制が一定の値を超えた分のだけ補填するという補償条件で、多くの出力抑制保険に設定されています。
そのため、免責時間や免責制御率を超えないと、補填はなしで保険料金の支払いはある、といった状況もありえなくはないのです。
九州電力エリア以外では、設置エリアで出力抑制が頻繁になったタイミングで加入検討しても遅くはありません。
一方で、九州電力管轄で10kW以上の太陽光発電を設置している方は、補償額が保険料金をペイできそうであれば加入検討しても良いでしょう。ただし、出力抑制保険の条件が提供会社によって免責時間や免責制御率が異なりますので、加入の際はよくチェックするのがおすすめです。
4.まとめ(太陽光発電の出力抑制対策はすぐには不要だが心構えは必要)
出力抑制は、売電損失によって太陽光発電の収益性に影響を与える可能性があるため、対策として出力抑制保険が必要に感じます。
しかしながら、現時点では九州電力以外では実施実績がなく、各電力会社は出力抑制低減に向けた取り組みも進めている状況です。
そのため、いますぐに出力抑制保険へ加入する必要はないと言えますが、徐々に出力抑制が現実味を帯びてきたエリアもあります。
また、経産省では、東京電力、中部電力、関西電力の3電力に対しても30日等出力制御枠の設定や、指定電気事業者制度の在り方を議論する方針を示しています。
設置エリアの出力抑制ルールはもちろん、電力会社の最新情報には目を光らせておき、必要に応じてすぐに動けるよう心の準備をしておきましょう。