2020年度における太陽光発電の売電価格|推移と今後の選択肢を解説
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2020年度は、太陽光発電の売電価格が前年度より低下しただけでなく、10kW以上50kW未満の太陽光発電設備に新たな要件が設けられました。
これまでも売電価格は下落傾向にありましたが、技術的な発展にともない設備費用が抑えられることで一定の投資対効果を保っていました。
しかし、新要件が定められたことで設備運用のあり方が大きく変わり、投資を目的とした個人の太陽光発電は選択肢が狭まりつつあるのです。
ここでは、2020年度における太陽光発電の売電価格と、売電価格の推移から浮かび上がる今後の有力な選択肢について解説していきます。
1.太陽光発電における2020年度の売電価格
太陽光発電設備のうち、FIT制度(固定価格買取制度)の認定を受けているものは、定められた期間一定の価格で電力会社に電力を買い取ってもらえます。
この際に適用される売電価格は、太陽光発電設備がFIT制度の認定を受けた年度により決まり、調達期間(FIT制度の適用期間)中は常に一定の価格が適用される仕組みです。
売電価格は、FIT制度の認定年度とともに変動しており、2020年度は以下の価格が適用されます。
住宅用太陽光発電 | 事業用太陽光発電 | |
発電出力 | 10kW未満 | 10kW以上 |
主な設置場所 | 家屋の屋根 | 空き地や工場の屋根 |
調達期間 | 10年間 | 20年間 |
売電価格 | 21円 | 10kW以上50kW未満(※):13円+税 50kW以上250kW未満:12円+税 250kW以上:入札により決定 |
※自家消費型の地域活用要件あり。ただし、営農型太陽光発電のうち10年間の農地転用許可が認められ得る案件は、災害時の活用が可能であれば自家消費を行わない案件であってもFIT制度の認定対象。
上記の事項を定めるFIT制度の詳細は、以下記事で解説しています。本記事とあわせてご参照ください。
1-1.10kW未満(住宅用太陽光発電)の売電価格
家屋の屋根に取り付けられる10kW未満の太陽光発電は「住宅用太陽光発電」に分類されます。
住宅用太陽光発電は以下のような仕組みによって成り立っており、FIT制度による電力買取は10年です。
2020年度にFIT制度の認定を受けた設備は、1kWhにつき21円の売電価格が適用されます。ただし、発電したすべての電力を売却できるわけではなく、売電形態は自宅で利用できなかった余剰電力を売却する「余剰買取」です。
電力のすべてを売却できない特性上、住宅の電気代を節約しつつエネルギーの自給自足を目指す目的に適している反面、純粋に金銭的なリターンを得る目的には適していません。
そのため、投資目的で太陽光発電を始めるなら、多くの場合は10kW以上の事業用太陽光発電が選ばれます。
1-2.10kW以上(事業用太陽光発電)の売電価格
空き地や工場の屋根などに取り付けられる10kW以上の太陽光発電は「事業用太陽光発電」に分類されます。事業用太陽光発電は以下の仕組みによって成り立っており、構造そのものに住宅用太陽光発電と大差はありません。
2019年度までに認定を受けた10kW以上の太陽光発電設備は、発電した全電力を売却できる「全量買取」を選択できたため、住宅用太陽光発電よりも投資目的に適した運用が可能でした。
しかし、2020年度以降に認定を受ける太陽光発電設備のうち、10kW以上50kW未満のものに関しては全量買取の対象ではなくなりました。
一部例外を除き、10kW以上50kW未満の太陽光発電設備は、すべて余剰買取の対象となったのです。
さらに、追加で新たな要件が課せられており、投資対効果は2019年度までに認定を受けた太陽光発電設備と比較して低下する傾向が見られます。
1-3.2020年度以降に適用される新たな要件について
2020年度以降にFIT制度の認定を受ける10kW以上50kW未満の太陽光発電設備は、以下の要件を満たすことが求められます。
- 余剰買取を行うための設備構造・事業計画の用意
- 災害時に活用可能な設備構造・事業計画の用意
まず、余剰買取の対象となったため発電した電力を自家消費できる構造にしなければならず、少なくとも発電した電力の30%を自家消費に充てる必要があります。
また、災害時に非常電源として活用できるよう、蓄電池や自立運転機能(パワーコンディショナより直接電源を取る機能)を備えることが必須化されました。
これら2つの要件により売電できる電力量は減りつつ、必要となる設備投資額が増えるため、10kW以上50kW未満の太陽光発電設備は投資対効果が低下するものと考えられるのです。
2.売電価格の推移と2020年度以降の投資事情
個人の運用対象となる、住宅用太陽光発電と10kW以上50kW未満の事業用太陽光発電は、FIT制度により定められた電力の買取価格が以下のように推移しています。
年度 | 住宅用太陽光発電 (10kW未満) |
事業用太陽光発電 (10kW以上50kW未満) |
2020年度 | 21円 | 13円+税(※) |
2019年度 | 出力制御対応機器設置義務なし:24円 出力制御対応機器設置義務あり:26円 |
14円+税 |
2018年度 | 出力制御対応機器設置義務なし:26円 出力制御対応機器設置義務あり:28円 |
18円+税 |
2017年度 | 出力制御対応機器設置義務なし:28円 出力制御対応機器設置義務あり:30円 |
21円+税 |
2016年度 | 出力制御対応機器設置義務なし:31円 出力制御対応機器設置義務あり:33円 |
24円+税 |
※自家消費型の地域活用要件あり。
いずれの規模においても、電力の買取価格は減少の一途をたどっているのです。
2-1.売電価格は継続的に下降傾向
先ほどの表が示すように、FIT制度が定める太陽光発電の売電価格は例年下降してきました。一方で、太陽光発電を始めるために必要となる設備コストも下がっており、実質的な投資対効果の悪化は限定的と考えられていました。
ただし、それは2019年度までの話です。先ほど触れた2020年度以降から適用される新要件によって、いよいよ投資効率は陰りを見せ始めており、従来と同等の投資対効果を維持するのは困難だとする見方もあります。より、太陽光発電を通じた投資に対して、投資対効果をシビアに判断すべきフェーズだといえるでしょう。
2-2.投資目的の太陽光発電は選択肢が狭まる傾向
2020年度以降、全量買取が適用される太陽光発電設備に投資をするのであれば、選択肢は以下のいずれかの手法に限定されます。
- 2019年度までに認定を受けた太陽光発電設備を運用する
- 全量買取の太陽光発電ファンドに出資をして運用する
- 50kW以上の太陽光発電設備を運用する
- ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)を始める
1つ目の選択肢に挙げた「2019年度までに認定を受けた太陽光発電設備を運用する」は、2019年度になるまでにFIT制度の認定を受けている新築・中古物件を購入して運用する手法です。
2020年10月現在、まだ市場には2019年度までに認定を受けた太陽光発電設備が存在します。
これを購入することで、全量買取が適用される設備で太陽光発電を始められます。
2つ目の選択肢に挙げた「全量買取の太陽光発電ファンドに出資をして運用する」は、ファンドと呼ばれる金融商品に投資をすることで、少額から全量買取が適用された太陽光発電の運用に携わる選択です。
太陽光発電ファンドについての詳しい仕組みは後述します。
選択肢は主に4つあるものの、3つ目と4つ目の選択肢は非常に限定的なケースです。
3つ目に挙げた「50kW以上の太陽光発電設備を運用する」という手法は、場合によっては初期費用として数億円の費用を要します。
金融機関の融資を利用したとしても、個人規模での投資が難しい水準であるため、ほとんどの場合は選択肢から外れるでしょう。
4つ目に挙げた「ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)を始める」は、前提として太陽光発電とともに農業を営む必要があります。
形式的に農業を行うだけでなく、一定数を超える農作物の生産が義務付けられているため、農業従事者でなければ継続できない選択肢だといえるでしょう。
以上の理由により、2020年度以降に太陽光発電を始めるのであれば、選択肢は実質的に以下に絞られます。
- 2019年度までに認定を受けた太陽光発電設備を運用する
- 全量買取の太陽光発電ファンドに出資をして運用する
次章では、後者の太陽光発電ファンドについて詳しく解説していきます。
3.2020年度以降はファンドが投資先の候補に
2020年度以降、個人が全量買取の太陽光発電投資を始めるのであれば、前述の通り選択肢はかなり絞られます。
太陽光発電ファンドは残された投資手法のうち、もっとも少額から始められる選択肢です。
3-1.太陽光発電ファンドとは何か
太陽光発電ファンドは、複数の出資者から投資資金を集めて、太陽光発電設備を運用する仕組みの金融商品です。
運用される太陽光発電設備が生み出した売電収入に基づき、その一部を出資者に還元する形となっており、出資者は間接的に太陽光発電設備の運用に関わりリターンを得られます。
なお、太陽光発電ファンドには複数のスキーム(仕組み)があり、弊社が提供する『ソライチファンド』は賃貸型スキームと呼ばれる以下の仕組みを採用しています。
- 出資者(投資家)が営業者(合同会社)に出資
- 出資金をもちいて営業者が太陽光発電設備に投資
- 営業者が太陽光発電設備をオペレーターに賃貸
- オペレーターの運用のもと、発電された電力は電力会社に売却
- 売電量に応じて、オペレーターは売電収入を獲得
- オペレーターが営業者に対して、賃借料を支払い
- 運営費用と内部留保を差し引いて出資者に分配
3-2.太陽光発電投資と太陽光発電ファンドの相違点
太陽光発電投資と比較したとき、太陽光発電ファンドはどういった特徴があるのでしょうか。
投資先を検討するうえで、検討対象の相違点を知ることは重要であるため、ここでは10kW以上50kW未満の太陽光発電設備と、ソライチファンドを例にして比較解説を進めていきます。
太陽光発電投資 | ソライチファンド | |
初期費用 | 1,000万円~2,000万円程度 | 1口50万円 |
運用期間 | FITの適用期間は20年間 | 最大20年間 |
電力買取 | 全量買取を選ぶ場合、選択肢が限定的 | 全量買取 |
運用業務 | 事業者自身で委託する相手を手配 | 出資にかかる手間はない |
専門知識 | 事業者(経営者)であるため必要 | 出資であるため不要 |
中途撤退 | 中古市場に設備を売却できる | 原則として中途解約は不可能 |
融資の利用 | 金融機関の融資を利用できる | 原則として融資は受けられない |
出口戦略(20年目以降) | 出口戦略を考えなければならない | 出口戦略を考えなくてよい |
上記のように、同じ太陽光発電への投資でありながら異なる点が多くあります。
とくに、初期費用の大きさや運用業務の必要性、出口戦略については投資計画に関わる重大な部分です。これらを踏まえて、どちらの方が自身の目的達成に適した投資先であるのか判断しなければなりません。
3-3.太陽光発電ファンドが投資先の候補になる理由
全量買取の太陽光発電を始める手段が絞られつつあるなか、太陽光発電投資を検討している個人投資家のなかには、2019年度までに認定を受けた太陽光発電設備に注目している方もいます。
50kW以上の発電設備は高額であり、ソーラーシェアリングは農業従事者でなければ参入が難しいため必然の流れです。
この状態は、いわば優良物件を「早いもの勝ち」で取り合っている状態だといえるでしょう。
そのため、あなたの希望する設備価格や立地条件の範囲では、理想的な水準の太陽光発電設備が見つからない恐れもあるのです。
一方、大規模な太陽光発電設備を運用する太陽光発電ファンドは、投資対象となる発電設備が依然として全量買取の適用範囲です。
そのため、2020年度の新要件追加の影響を受けず、今回ご説明した投資対効果が大幅低下するケースに当てはまりません。
実物資産の運用につきまとう設備管理や立地選定といった要素も、太陽光発電設備の管理をすべて専門家に任せられる太陽光発電ファンドなら負担にならないのです。
これらの点を考慮すると、2020年度以降は太陽光発電ファンドが投資先の候補として有力になると考えられます。
4.まとめ
FIT制度により規定された売電価格は例年低下する傾向にあり、2020年度には10kW以上50kW未満の太陽光発電設備に新要件が設けられました。
徐々に、個人が投資を目的として太陽光発電を始める選択肢が狭まりつつあるのです。
投資目的で太陽光発電を始めるなら、用意できる投資資金を加味しつつ2019年度までに認定を受けた太陽光発電設備へ投資する、あるいは太陽光発電ファンドへ出資して運用する方法のいずれかから、無理のない方法を選んで取り組むことを推奨します。