台風リスクを解説|太陽光発電を始める前に知りたい対策・保険について
この記事の目次
ときに台風は、太陽光発電事業をストップさせて、投資額回収を困難にするほどの脅威となります。そのため、自然災害による損害を最小化し、中長期にわたって事業を継続するためには対策が欠かせません。
ここでは、台風による太陽光発電パネルへの被害事例と、その対策方法について解説していきます。取り返しのつかない巨額の損失を抱えないよう、リスクへの向き合い方を考える参考材料の1つとしてご参照ください。
1.台風による太陽光発電パネルへの被害事例
平成30年、令和元年と台風による太陽光発電設備の被害が目立ち、あらためて台風対策の必要性が浮き彫りとなりました。
ここでは、台風によりどのような惨状が引き起こされるのか、実際の被害事例を交えて解説していきます。
1-1.台風により太陽光発電設備が故障する主なケース
台風により太陽光発電設備が故障する主なケースとして、以下2つの要因が挙げられます。
- 強風による太陽光発電パネルの飛散
- 大雨による土砂崩れ
自然災害にまつわる故障のうち、台風にともなう強風や大雨による被害は多い傾向にあります。
以下は山の斜面に設置された発電出力750kWの太陽光発電所(兵庫県姫路市)です。
切⼟、盛⼟した⼟地に設置されており、幅・⻑さともに50mにわたって崩壊しました。平成30年7月の豪雨によるものですが、台風によって大雨が続けば土砂崩れによってこのような被害が起こる可能性もあるのです。
出典:経済産業省 産業保安グループ 電力安全課資料
このほか、河川の近くに設置された太陽光発電設備が浸水するケースもあり、令和元年台風19号では群馬県や福島県などで多くの浸水事故が確認されています。
1-2.実際の被害事例を紹介
経済産業省が公開している被害事例を中心に、台風によってどのような被害がもたらされるのか、写真を交えて3つの事例を順番にご紹介します。
- 太陽光発電パネルの変形と発火
- 太陽光発電パネルの飛散と地絡の発生
- 水上設置型の設備が破損・変形
以下画像は、建物の屋上に設置された発電出力6,500kWの発電設備(⼤阪市住之江区)の被害事例。平成30年台風21号の上陸にともなう強風によって、太陽光発電パネルが架台から引きちぎられた様子です。
パネルの取付⾦具は、パネル⼀部を挟み込んだ状態で屋根に残っていることから、台風の最大風速が、設計上の数値(34m/s)を大幅に超えたために破損したものと見られており、一部破損した太陽光発電パネルから発火する現象も確認されています。
出典:経済産業省 産業保安グループ 電力安全課資料
出典:経済産業省 産業保安グループ 電力安全課資料
変形や発火のほか、設備の一部が飛散して近隣の建物に衝突し、建物が損傷したことも確認されています。
沿岸部においては、強⾵によりパネルが架台から引きちぎられ⾶散する事象が発⽣していることから、沿岸部に設置する場合には安全率に充分な裕度を見る等、慎重な設計が必要といえます。
以下画像も、上記と同じく平成30年台風21号による強風が原因となり、風圧や飛来物によって太陽光発電パネルにひびが入った様子です。
発電出力が9,990kWある地上設置型の太陽光発電設備(大阪市此花区)で、太陽光発電パネルを3万6,480枚設置していましたが、全体の4割近いパネルが破損。
海上⼈⼯島先端部の平坦な場所に設置されていたことから、パネルの耐荷重仕様値を超える圧⼒が⽣じ、パネルが破損したしたと推定されています。
パネルの飛散はありませんでしたが、構内外の砂利が飛散し、パネルのガラス面が損傷しました。
出典:経済産業省 産業保安グループ 電力安全課資料
ガラス部分にひびが入るだけでなく、電気回路が地面と接続した状態である「地絡(ちらく)」が発生したことも確認されています。
地絡の生じた場所に人が入ると感電を引き起こすため、人的な事故の原因になり、可燃物が周囲にある場合には発火の危険性もあります。
⾵圧による破損対策としては、正圧に対する耐荷重性能を向上させたパネルを選定する。砂利⾶散の対策には、通路のアスファルト舗装や粉塵⾶散防⽌剤の散布が有効でしょう。
以下画像は、2019年9月に上陸した台風15号により、発電出力13.7MWの水上設置型太陽光発電設備(千葉県市原市)が損壊した様子です。
台風による強風が設計上の風速を超過したことや、アイランドの一部に荷重が集中したことなど、原因は複合的なものだと考えられています。
出典:経済産業省 産業保安グループ 電力安全課資料
貯水池の水位上昇にともなう浸水や転覆にも配慮する必要があるでしょう。なお、2020年6月に水上設置型の発電設備に関して技術基準等が見直されています。
いずれも、台風の恐ろしさを見て取れる事例です。太陽光発電事業者は、これらの脅威をどのように対策すれば良いのでしょうか?
2.太陽光発電事業者はどのように台風へ対策すべき?
台風被害の恐ろしさは明白ですが、台風そのものの発生は阻止できないため、太陽光発電事業者の取れる対策方法は限られています。
太陽光発電設備の設置前後に検討し、可能な範囲で取り組むべき対策についてご説明します。
2-1.設置エリアの事前調査を行う
太陽光発電設備の設置前に、設置エリア周辺における自然災害のリスクがどの程度か調査することは、有効な対策の1つです。
主な手法としては、国土交通省や地方自治体が公開しているハザードマップを参照することと、台風にまつわる過去のニュースを参照することの2つです。
「令和元年台風19号における太陽電池発電設備の被害状況一覧」によれば、前述した令和元年台風19号による浸水被害は、半数以上がハザードマップから確認できる「浸水被害想定区域内」に位置していたとのこと。
下記の通り、16件の浸水被害のうち、9件は浸水被害想定区域内に設置されている太陽光発電設備が被害を受けたものです。
出典:経済産業省「令和元年台風19号における太陽電池発電設備の被害状況一覧」
このほか、ハザードマップは土砂崩れの表示にも対応しており、台風上陸にともなう豪雨がもたらす災害の予想に役立ちます。
ハザードマップを活用した予想は絶対ではないものの、どの程度の警戒レベルを意識すれば良いのか参考材料の1つとなるはずです。
2-2.運用にともない損害保険へ加入する
ハザードマップを参照すれば、台風の上陸時にどのような被害に巻き込まれる可能性が高いのか分かります。
この情報をもとに加入すべき損害保険を検討すれば、太陽光発電設備の設置エリアに相応しい選択肢を絞り込むことが可能です。
火災保険や動産総合保険といった損害保険に加入することで、台風を始めとする自然災害によって損壊した太陽光発電設備の「復旧にかかる費用」を補填してもらえます。
火災保険と動産総合保険の補償対象となる被害は、基本的に以下のような自然災害によるものです。
- 火災・落雷・爆発
- 風災・雪災・雹災
- 水災
- 不測かつ突発的な事故(盗難・飛来物の衝突など予測不能なもの)
- 電気的事故・機械的事故(ショートやスパークにより機械が損傷したもの)
プランに応じて対応できる自然災害は変わってくるため、先ほど解説したハザードマップや過去ニュースをもとに、過不足のない内容の損害保険に加入することが重要です。
ただし、どちらの保険であっても地震や地震にともなう津波には対応できないため、これらに備えるのであれば火災保険や動産総合保険とは別に地震保険に加入しなければなりません。
また、太陽光発電設備の周囲に住宅があったり人通りが多かったりする場合は、太陽光発電パネルの飛散などにより他者へ損害を与える可能性があります。
火災保険や動産総合保険では、発電設備そのものの損失しか補填できないため、他者へ損害を与えるリスクを対策する場合には施設賠償責任保険の加入が候補に挙げられます。
施設賠償責任保険は、他者の身体や保有物に損害を与えたときに、賠償責任によって被る損害をカバーする保険です。
与えた損害によっては高額な損害賠償を請求されるため、火災保険や動産総合保険とセットで検討すべき選択肢だといえます。
なお、損害保険と混同されやすい「メーカー保証」は、自然災害による損害の補填手段とならない点に注意してください。
メーカー保証は外的要因による故障には対応しておらず、製品自体に不良や欠陥がある場合に適用されるものであるため、被災や事故に対策するのであれば損害保険の加入が必要です。
2-3.定期的にメンテナンスを実施する
太陽光発電設備における台風被害では、設備の接合部に使われるボルトの緩みにより太陽光発電パネルが脱落する事例がありました。
これは、定期的なボルトの増し締めによって対策できるため、台風前にはボルト使用部分のこまめな点検がなされる状態が理想です。
このほか、産業保安グループ電力安全課の「台風期前の再エネ発電設備に対する注意喚起について」では、架台・基礎の強度確認や接合部の錆・破損、柵・塀・ケーブルの損傷についても十分に確認するよう啓蒙しています。
構内外の周辺に、強風により飛散が懸念されるものを設置している場合、台風前に可能な範囲で撤去するなどの工夫も必要でしょう。
3.台風被害に遭遇した場合の対応方法
事前調査を経て設置エリアを選定し、定期的なメンテナンスを実施してもなお、台風被害により太陽光発電設備が損壊する可能性はあります。
実際に太陽光発電設備が損壊してしまった場合には、近隣の人々が破損した発電設備に近付かないように注意し、速やかに専門業者へ連絡しなければなりません。
また、太陽光発電設備の報告徴収・事故報告は、従来50kW以上の発電設備のみ対象となっていましたが、保安規制の見直しにより50kW未満の発電設備も対象に加わります。今後は規模の大小にかかわらず、事故報告が必要となっていく点に留意してください。
なお、太陽光発電における事故報告は、速報と呼ばれる24時間以内の報告と、詳報と呼ばれる30日以内の報告に大別できます。
それぞれ、どのような内容の報告が求められるのか、電気関係報告規則第3条で定められています。
出典:産業保安グループ 電力安全課「小出力発電設備の電気保安の確保について」
上記の通り、速報では「いつ・どこで・なにが・どうなった」を電話などをもちいた口頭で伝達し、のちにより詳しい情報を11の項目で詳報として報告しなければなりません。
事故内容の詳述が求められる詳報については、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)によりWeb上に設置されている「詳報作成支援システム」を利用して作成可能です。
出典:独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)「詳報作成支援システム」
いずれも、報告を怠ったり虚偽の報告を行ったりすれば報告徴収違反となり、1年以下の懲役や100万円以下の罰金が科せられる点に注意が必要です。
4.台風だけではない!太陽光発電の主なリスク
本記事では、台風を中心として太陽光発電のリスクをご紹介しました。
しかし、台風を始めとする自然災害によるリスクはほかにも存在します。主なリスクとして、自然災害のほかにも以下の4つが挙げられます。
- 日射量の変化による収入の変動
- 発電設備や周辺機器の故障
- 出力制御(出力抑制)
- 盗難による被害
各リスクの内容と対策方法は、別途記事をご用意して解説しています。台風以外のリスクについて確認する際は、下記をご参照ください。
5.まとめ
過去事例からも分かるように、台風は太陽光発電設備を大破させるケースがあり、数ある可能性のなかでも特に脅威となるリスクです。
太陽光発電を検討している段階なら、ハザードマップや過去ニュースを参照して危険度が高いと思われるエリアを避け、すでに太陽光発電を始めているなら損害保険やメンテナンス頻度の見直しを検討してみてください。