FIP制度とFIT制度の違い 電力市場はどう変わる?
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再生可能エネルギーの普及に大きく貢献したFIT制度(固定価格買取制度)。FIT制度のおかげで2018年度には日本の電力構成における再エネ比率が約17%、2017年の導入量でも世界6位となりました。
一方で再エネ賦課金の単価が、2012年の0.22円/kWhから2020年には2.98円/kWhと増大し、国民の負担が増してしまいました。
そんな中、国民負担の増大を抑えたり、再生可能エネルギーを完全自由競争にして自立を後押ししたりするために、2022年度よりFIP(フィップ)制度の導入が検討されています。
この記事では、FIP制度と再エネ型経済社会の解説と、予想される電力市場の変化についてご紹介します。
1.FIP(フィップ)制度とは?
FIP制度とはFeed-in Premium(フィードインプレミアム)の略称です。
ヨーロッパでは主流になっている制度で、再エネ発電事業者への補助金を削減する効果や、産業の自立が期待されています。
1-1.日本の発電コストは高い
現在、世界では、地球温暖化が大きな問題となっており、日本政府も再エネの主力電源化を推進中です。
2018年度は日本の電源構成における再エネ比率が約17%だったことは先ほどお伝えしましたが、日本政府は2030年に再エネ比率を22~24%にする計画を立てています。
ですが、日本の再エネ発電コストはヨーロッパ諸国と比較して高いのが現状です。
2019年の発電コスト(買取価格)を比較すると、太陽光発電は日本の12.9円/kWhに対し、ドイツは6.8円/kWh。
風力発電は、日本の19円/kWhに対し、ドイツは6.9円/kWhです。
このようにドイツと比較して日本の太陽光発電は2倍弱、風力発電は3倍弱も高くなっています。
下の図をご覧いただくとわかるように、その他のヨーロッパ諸国と比較しても、日本の再エネ発電コストは高額です。
出典:「再エネ型経済社会」の創造に向けて 経済産業省 資源エネルギー庁
日本の再エネ発電コストがヨーロッパ諸国と比べて高い理由に、機器コストの高さや、施工期間の長さがあげられます。
そこでFIP制度を導入して、各業者のコスト競争を活性化させ、発電コストの低減を促すのです。
1-2.FIT(フィット)制度との違い
FIP制度はFIT制度と以下の違いがあります。
FIT制度 | 買取価格が一定で、収入はいつ発電しても同じ |
FIP制度 | 補助額(プレミアム)が一定で、収入は市場価格に連動 |
出典:FIP制度の詳細設計とアグリゲーションビジネスの更なる活性化 経済産業省 資源エネルギー庁
FIT制度では、電力需要の多い時間帯に発電しても、電力需要の少ない時間帯に発電しても、買取価格は一定でした。
一方でFIP制度は価格ではなく補助額(プレミアム)が一定です。
上図の右をご覧いただくとわかるように、変動する市場価格にプレミアムが上乗せされます。
市場価格が低下する時間帯は買取価格も低下しますし、市場価格が高騰する時間帯は買取価格が上昇します。
市場価格が低下する時間帯の買取価格を抑えられるため、発電コストの削減が可能です。一方で再エネ発電事業者は、収益を予想しづらくなります。
その分、機器コストの低減や施工期間の短縮といった企業努力、他社との競争が促され、さらなる発電コストの削減を期待できます。
1-3.FIP制度の種類
FIP制度には、以下の3つがあります。
- プレミアム固定型FIP
- プレミアム固定型FIP(上限・下限付)
- プレミアム変動型FIP
出典:再生可能エネルギーの大量導入時代における政策課題と次世代電力ネットワークの在り方 経済産業省 資源エネルギー庁
1.プレミアム固定型FIP
プレミアム固定型FITは、プレミアムが固定されます。
買取価格が市場価格の動きに連動するため、市場価格が上昇する電力需要の多い時間帯では、買取価格も上昇します。
一方で、市場価格が低下する電力需要の少ない時間帯には、買取価格も低下するため、再エネ事業者の収益が市場価格に大きく左右される方式です。
2.プレミアム固定型FIP(上限・下限付)
プレミアム固定型FIP(上限・下限付)は、プレミアムが固定されるものの、上限と下限が設定されます。
上限を超えた分のプレミアムはカットされてしまうため、市場価格が上昇する時間帯の発電コストを抑えることが可能です。
一方で下限も設定されているため、市場価格がどれほど低下しても、再エネ事業者に支払われる買取価格は下限より下回りません。
市場価格が低下する時間帯は、発電コストが割高になってしまう可能性があります。
最適な上限値、下限値の設定が大変むずかしい方式です。
3.プレミアム変動型FIP
プレミアム変動型FIPは市場価格に応じて、プレミアムも変動する方式です。
変動型には買取価格を一定にしたり、市場価格に対する割合を一定にしたりなど、さまざまな方式があります。
買取価格を一定にする方式は、日本のFIT制度が近いです。
この方式の場合、市場価格が低下する時間帯は、割高なプレミアムを支払わなければなりません。一方で、市場価格が上昇する時間帯は、市場価格以下での買取が可能になる場合があります。
買取価格が一定なため、事業者は収益を計算しやすいのが大きな特徴です。
1-4.日本が導入を検討しているFIP制度は?
日本では1ヶ月ごとに市場価格を参照してプレミアムを設定し、プレミアムの交付も1ヶ月ごとに行う方向で検討されています。
1ヶ月ごとのプレミアムが市場価格によって変動するため、プレミアム変動型FIPに近い形といえるでしょう。
出典:FIP制度の詳細設計2 経済産業省 資源エネルギー庁
市場価格の参照期間を短くすると、再エネ事業者は収益を予測しやすくなりますが、複雑な手続きや手間が増加します。
逆に参照期間が長いと、手続きや手間を減らすことができますが、買取価格と再エネ事業者の収益乖離リスクが高まってしまうのです。
プレミアムの交付頻度を短くすると、再エネ事業者は資金繰りが楽になりますが、手続きや手間が増加します。
逆にプレミアム交付頻度を長くすると、手続きや手間は減りますが、再エネ事業者は資金繰りが難しくなるのです。
経済産業省が検討しているのは、プレミアム・収益等の不確実性を高めないようにしつつ、手続きや手間を増やしすぎないシンプルな制度設計です。
2.再エネ型経済社会
FIP制度が検討されている大きな理由は、「再エネ型経済社会」を創造するためです。
経済産業省は、再エネ型経済社会の創造について、以下の3つのポイントをあげています。
- 産業:諸外国ではビジネスベースでの再エネの導入が進みつつある中で、どのように低コスト・安定的な導入を可能とする「競争力ある産業」に進化させていくか。
- 社会基盤:分散型の再エネを効率的・大量に利用可能な経済社会システムの構築に向けて、電力系統などの「産業社会インフラ」の整備をどのように進めていくか。
- 地域社会:再エネが地域や社会から受容され、持続可能な形で導入が拡大してくような「再エネ型の地域社会」をどのように構築していくか。
2-1.産業
FIT制度の導入により再生可能エネルギーの導入が進んだものの、再エネ賦課金の単価が上昇して国民負担が増加したことを先ほど解説しました。
ですが、地球温暖化を防止するためにも再生可能エネルギーのさらなる導入は不可欠です。
そのためにもFIP制度を導入することで再生可能エネルギーを完全自由競争にします。
発電コストの削減と国民負担の軽減を進め、FIT制度に依存する形ではなく、自立した競争力のある産業に進化させるのが大きな狙いです。
2-2.社会基盤
分散型電源や、電力系統など、インフラの整備も大きな課題です。
分散型電源とは、簡単にいうと発電所をさまざまな場所に分散させること。これまでの日本の電源は、原子力発電所や火力発電所といった、少数の発電所に依存していました。
少数の発電所に依存することで、遠隔地に電気を運ぶ際にロスが生じて、電力が無駄になってしまいます。
災害などによって発電所が稼働できなくなると、大規模停電が起きるなど、多くの人の暮らしに支障がでます。
分散型電源なら遠隔地からではなく、より近い発電所から電力を受けられるため、電力のロスを抑えられるのです。
また災害時の電力不足も抑えられます。
分散型電源を実現するためには、太陽光発電所や風力発電所をさまざまな地域に建設することと、それらの電力系統を整備することが必要です。
電力系統を整備するためには、分散された電源を束ねて供給する「アグリゲーションビジネス」の活性化も求められます。
2-3.地域社会
再エネ事業が地域社会に受け入れられることも重要です。
太陽光パネルが台風によって飛ばされたり、風車が倒れたりといったニュースがありましたが、その地域に暮らす方の中には不安に思う方もいます。また再エネ賦課金によって、出費が増していることをよく思わない方もいるでしょう。
地域社会から受け入れてもらうには、再エネ発電所の安全管理の徹底や、再エネ事業による経済効果、地球環境への重要性などを理解してもらう工夫が必要です。
3.再生可能エネルギー発電市場はどう変わる?
FIP制度によって、再エネ事業者の負担が増す可能性があります。FIT制度は買取価格が一定だったため、発電量さえ予測できれば収益予測も容易でした。
一方でFIP制度の場合、市場価格やプレミアムによって収益が変わるため、収益予測が困難です。しかも収益予測するには、より多くのデータが必要になります。
またFIT制度と比べると収益が不安定です。
収益が不安定な分、機器コストの削減や施工期間の短縮などのコストカットや、蓄電池を使ってプレミアムの割合が高い時間帯に売電するなどの工夫が必要となり、新規参入のハードルは上がるでしょう。
一方で、機器コストの削減や施工期間の短縮といった改善が進めば、発電コストが抑えられて、より競争力の高い自立した産業にできます。
4.太陽光発電ファンドへの影響
弊社は太陽光発電ファンドの「ソライチファンド」を取り扱っています。ソライチファンドはFIT制度のファンドなので、20年間の買取価格が決まっています。
この先FIP制度が導入されたとしても、FIT制度の発電所には適応されません。
なおFIP制度が始まった後に、FIP制度の太陽光発電所を建設し、新たなファンドを販売するかどうかは未定です。
もしFIP制度後に新たなファンドを立ち上げるとしても、FIP制度で運用してデータをとってからでないと、ファンドを販売できないと考えています。
5.まとめ
日本の再生可能エネルギーは、FIT制度によって導入が進められてきました。
ですが、FIT制度に依存した形ではなく、産業として自立した形で再生可能エネルギーの導入が進んでいく仕組みを作らなければなりません。
そのためにFIT制度からFIP制度への移行が検討されています。まだ検討段階ですが、2022年度から移行される方向で進んでいます。
今後の電力市場がどうなるのか、見守りましょう。