発電側基本料金で発電事業者の収益は悪化する?

 

この記事の目次

2018年7月3日閣議決定された「発電側基本料金」。

そもそも発電側基本料金とは、何の費用で、なぜ導入されることになったのでしょうか。

この記事では、発電側基本料金とはなにか、そして導入されることになった背景と理由について解説します。

さらに、導入後の発電事業者の収益や国民の負担について、考察しています。

1.発電側基本料金とは?

発電側基本料金とは、送配電設備の費用を発電事業者にも求める制度です。

これまで送配電設備の費用は、小売電気事業者(需要者側)が負担してきましたが、2018年7月3日に閣議決定された「第5次エネルギー基本計画」にて発電側基本料金の導入が決まりました。

発電側基本料金の今後の進め方を経済産業省は以下の流れで検討しています。

出典:経済産業省 資源エネルギー庁「発電側基本料金の調整措置について」

  1. 2020〜2021年:システム開発
  2. 2022年:料金改定プロセス
  3. 2023年:導入

このように経済産業省は発電側基本料金の導入を進めています。

一方で、負担が増えることになる発電事業者の収益の悪化が懸念されています。

2.なぜ発電側基本料金が導入されるのか?

発電側基本料金を導入する主な理由は、以下の2つです。

  1. 接続容量の増大
  2. 送配電網の高経年化

2-1.接続容量の増大

2012年にFIT制度(固定価格買取制度)が開始されました。

FIT制度によって、太陽光や風力発電などの再生可能エネルギーを用いた発電所を建設する事業が拡大。

実際に、さまざまな場所で太陽光発電所や風力発電所を目にすることが増えました。

FIT制度が導入される前年の2011年は、日本の電源構成における再生可能エネルギーの割合は約10%でしたが、2018年には約17%に増加しています。

このように再生可能エネルギーによる発電所の導入が拡大したことで、「接続容量」が増大しています。東北北部では、空き容量がなくなってしまいました。

出典:経済産業省 資源エネルギー庁「発電側基本料金の調整措置について」

接続容量が増大することで、送配電網(電線など)の増強が必要になり、送配電設備の費用増大が予測されています。

今後、費用増大が予測されることが、発電側基本料金の導入が進められている1つの理由です。

2-2.送配電網の高経年化

現在の送配電網の多くは、1960〜80年代の高度経済成長期に整備したものが多く、設備の更新に多額の資金が必要になります。

小売事業者だけでなく、系統利用者である発電事業者にも送配電関連費用に与える影響(受益)に応じた費用負担を求める必要があると考えられています。

これが、発電側基本料金の導入が進められているもう1つの理由です。

出典:経済産業省 資源エネルギー庁「発電側基本料金の調整措置について」

3.発電側基本料金によってどう変わるのか?

発電側基本料金が始まった場合、送配電設備の費用の1割を発電事業者が負担すると想定されています。

「小売電気事業者9:1発電事業者」の割合となる計画です。

出典:経済産業省 資源エネルギー庁「発電側基本料金の調整措置について」

3-1.発電側基本料金の水準

発電側基本料金の水準について、電力・ガス取引監視等委員会が2015年の大手10社の費用をベースに簡易試算しました。

その結果が「平均単価150円/kW・月」です。

しかし、この水準は発電容量や地域によって違います。

エリア別では123〜169/kW・月の振れ幅が簡易試算されています。

3-2.発電事業者の収益は悪化する?

これまで小売電気事業者が全額負担してきた、送配電設備の費用の1割を発電事業者が負担することで、小売電気事業者の負担は軽減されます。

小売電気事業者における需要側託送料金の減額分については、発電側基本料金の制度趣旨を踏まえると、卸料金への転嫁に充当されるべきと考えられています。

発電側基本料金は、既存の設備にも適用されるため、契約の見直しが行われないと制度変更に伴う費用負担を発電事業者側が一方的に負わされることになり、発電事業者の収益が悪化する可能性があります。

この小売電気事業者の負担軽減分を相対契約の取引金額に適性に充当・転嫁させることが必要であると考えられています。

3-3.国民への賦課金による調整も検討されている

FIT(固定価格買取制度)による電源についても、発電事業者側の負担増分について転嫁による調整が行われることになりましたが、小売電気事業者の取引状況等によっては託送料金減額分以上の部分については十分な転嫁が行われず、転嫁水準に差異が生じる可能性が指摘されています。

そこで、賦課金による調整措置を講じることにより、小売電気事業者からの円滑な転嫁を促し、より確実・十分な転嫁を実現していくという考え方もあります。

電気料金の値下げ分を、賦課金として国民から調達する方法です。

しかし、スムーズに電気料金が値下げされるとは限らないため、方法を間違えると国民負担の増加を招きかねません。

そのため経済産業省は、対象や水準について、慎重に検討すべきとしています。

4.今後の議論の方向性

送配電設備の費用の負担についての議論は、2012年に始まったFIT(固定価格買取制度)の小売買取ケースにおける対応の在り方から始まっています。

FITでは送配電事業者が買い取るケース(送配電買取)と、小売事業者が買い取るケース(小売買取)があり、2017年4月より施行された改正FIT法以降は送配電買取です。

発電側基本料金の調整措置を考えるときに、小売買取と送配電買取をわけて考えなければならず、送配電買取と小売買取の公平性が求められます。

FITの大半を占める送配電買取の「調整措置の原資がどこから出るか」ということが最大の問題ですが、議論はまだまとまっていません。

また、託送料金制度全般の抜本的な見直しが必要という意見もあり、現在も様々な視点から議論されています。

まとめ

発電側基本料金によって、再エネ発電事業者の収益悪化が懸念されていますが、小売電事業者の負担軽減分を充当・転嫁したり、電気料金値下げ分を賦課金として調達したりなど、発電事業者の収益性が悪化しないように調整措置が検討されています。

今後の動向に注目が集まります。


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