「低圧」と「高圧」の太陽光発電はどう違う?個人は何を選べば良いの?
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事業用太陽光発電は「低圧」と「高圧」に大別されます。低圧と高圧では1kWあたりの設置コストが大きく異なり、それぞれにメリット・デメリットもあります。
低圧なのか高圧なのかによって課せられる義務も違うため、太陽光発電設備の運用を行うにあたり相違点を理解しておく必要があるでしょう。
ここでは、低圧と高圧の太陽光発電設備にどのような違いがあるのか、わかりやすくご説明します。
1.「低圧」と「高圧」の太陽光発電はどう違う?
「低圧」と「高圧」は、それぞれ発電設備の区分をあらわす言葉です。
「電気事業法」や「電気設備に関する技術基準を定める省令」といった法律に基づき、事業用太陽光発電は発電設備の出力や電圧によって低圧・高圧が分類されます。
項目 | 低圧物件 | 高圧物件 |
発電設備の出力 | 10kW以上、50kW未満 | 50kW以上、2000kW未満 |
交流電圧 | 600V以下のもの | 600V超、7000V以下のもの |
直流電圧 | 750V以下のもの | 750V超、7000V以下のもの |
一般的には、上記をもとに発電設備の出力へ注目して「10kW以上50kW未満なら低圧物件、50kW以上なら高圧物件」といった判断を下します。
なお実際の設備では、太陽光パネル(最大公称出力)とパワーコンディショナ(定格出力)の出力容量が異なる場合があり、出力値が小さい方を発電出力として考えます。
太陽光パネルの出力が50kW以上となっている場合でも、パワーコンディショナの出力が50kW未満であれば、その設備は低圧物件に分類されるのです。
つまり、以下のような条件の太陽光発電設備は、どちらも低圧物件に分類されます。
項目 | 低圧物件A | 低圧物件B |
太陽光パネルの出力 | 100kW | 49kW |
パワーコンディショナの出力 | 49kW | 49kW |
発電出力(小さい方を採用) | 49kW | 49kW |
低圧物件Aのように、パワーコンディショナよりも太陽光パネルの出力を大きくすることを「過積載」と呼び、過積載はパワーコンディショナの能力を最大限発揮させるために行われます。
2.低圧の太陽光発電の特徴
事業用太陽光発電のうち、発電出力が10kW以上50kW未満のものは低圧物件に分類されます。ここでは低圧物件にかかる費用や、高圧物件と比較したとき低圧物件にはどのようなメリット・デメリットがあるかご説明します。
2-1.低圧の太陽光発電にかかる費用
「令和2年度の調達価格等に関する意見」によると、2019年時点における低圧物件のシステム費用(設備費+工事費)の平均値は、1kWあたり26.8万円です。たとえば、40kW程度の低圧物件を設置するなら、システム費用として1,072万円程度が必要となる計算です。
2-2.低圧の太陽光発電のメリット
低圧物件と高圧物件を比較したとき、低圧物件には以下のようなメリットがあります。
- 初期費用・維持費用が安い
- 比較的、必要となる面積が小さい
- 第二種工事士による作業が可能である
- 手続き・工期が比較的短く、早々に稼働できる
- 「保安規程の届け出」や「電気主任技術者の選任」が不要
低圧物件は、高圧物件では必要となるキュービクル(変圧器)と呼ばれる高額設備を設置する必要がありません。
また、高圧物件の場合に課せられる「電気技術主任技術者への委託」が義務ではなく、メンテナンスの対象となる設備の規模が小さいこともありコスト面で有利です。
総じて、費用や課せられる義務などの負担が小さく、発電事業を始めるハードルが低い点は低圧物件のメリットだといえるでしょう。
2-3.低圧の太陽光発電のデメリット
低圧の太陽光発電設備は、以下のようなデメリットがあります。
- 1kWあたりのシステム費用は割高
- 設備を設置する土地の坪単価が比較的高い
- 原則、全量買取の適用対象外である
以下のグラフから読み取れるように、事業用太陽光発電のうち10kW以上50kW未満のものはシステム費用平均値が26.8万円/kW(2019年度)となっており、50kW以上の平均値に比べて割高となっています。
出典:調達価格等算定委員会「令和2年度の調達価格等に関する意見」
また、10kW以上50kW未満の低圧物件に適した土地の坪単価は、高圧物件を設置する山林・原野に比べて高い傾向にあり、安価な土地を探すことが困難です。
そして、低圧物件は2020年度から地域活用要件が設けられ、30%の自家消費が必須となりました。
電力をすべて売却する全量買取を選べず、発電した電力のうち最大70%しか売却できないため、発電量に対する売電収入の大きさは高圧物件に劣ります。
3.高圧の太陽光発電の特徴
事業用太陽光発電のうち、50kW以上のものは高圧物件に分類されます。
ここでは高圧物件の費用や、低圧物件と比較したとき高圧物件はどのようなメリット・デメリットがあるのかご説明します。
3-1.高圧の太陽光発電にかかる費用
「令和2年度の調達価格等に関する意見」によると、高圧物件のシステム費用平均値は以下の通りです。
項目 | システム費用平均値(2019年) |
50kW以上500kW未満 | 1kWあたり21.0万円 |
500kW以上1000kW未満 | 1kWあたり21.5万円 |
1000kW以上 | 1kWあたり22.2万円 |
出典:調達価格等算定委員会「令和2年度の調達価格等に関する意見」
2019年度における低圧物件のシステム費用平均値は、1kWあたり26.8万円であったため、高圧物件のシステム費用平均値は低圧物件より割安であることが分かります。
ただし、設備規模が大きいためシステム費用の総額は大きく、250kWの高圧物件であれば5,000万円程度、500kWを超えた段階から1億円以上の費用がかかる計算です。
3-2.高圧の太陽光発電のメリット
高圧物件と低圧物件を比較したとき、高圧物件には以下のようなメリットがあります。
- 1kWあたりのシステム費用は安い
- 売電収入のスケールが大きい
- 設備を設置する土地の坪単価が比較的安い
- 全量買取を選択可能
高圧物件ではスケールメリットが働くため、1kWあたりのシステム費用が安くなる傾向にあります。それでいて発電規模は大きく、山林・原野などの広く坪単価の安い土地を選ぶことが多いため、投資対効果は低圧物件よりも高くなりやすいのです。
また、10~50kWの低圧物件とは異なり、50kW以上の高圧物件は全量買取の対象となります。自家消費の義務がなく、つくった電力をすべて売却できるため、高圧は低圧よりも投資に適した区分だといえるでしょう。
3-3.高圧の太陽光発電のデメリット
高圧の太陽光発電設備は、以下のようなデメリットがあります。
- 初期費用・維持費用が高い
- 比較的、必要となる面積が大きい
- 第一種工事士・認定電気工事従事者による作業が必要となる
- 手続き・工期が比較的長く、稼働までに時間がかかる
- 「保安規程の届け出」や「電気主任技術者の選任」が必要
高額な設備であるキュービクルが必要となり、発電設備そのものが大きいことから、初期費用は低圧物件に比べて高額になります。
また、発電設備の規模に応じてメンテナンス費用も増えるため、維持費用も比較的高額です。
太陽光発電設備の設置等の作業は、第一種工事士または認定電気工事従事者が担う必要があり、低圧物件にはない「保安規程の届け出」や「電気主任技術者の選任」といった義務が課せられる点は、事業者にとって投資のハードルや負担となります。
3-4.特別高圧の太陽光発電とは?
50kW以上の事業用太陽光発電のうち、発電出力が2,000kW以上のものは特別高圧に分類されます。
特別高圧物件はさらにシステム費用が割安になるものの、電気主任技術者の外部委託が認められず、供給電力量の制限を受ける可能性があるなど複数の制約があります。場合によっては、送電線や鉄塔の新設が必要となるため、一個人や中小企業が運用することは一般的ではありません。
3-5.高圧物件の義務を回避する「低圧分割」は禁止
高圧物件は「保安規程の届け出」や「電気主任技術者の選任」など、低圧物件にはない義務が課せられます。これらの義務を回避するため、以前は低圧分割と呼ばれる手法が使われていました。
たとえば、300kWの太陽光発電設備を設置できる土地へ、低圧物件として49kWの太陽光発電設備を6基設置するといったケースは低圧分割に該当します。2014年度から、低圧分割は禁止されているため、義務を逃れるために複数の低圧物件を建設しないよう留意しなければなりません。
4. 事業計画認定の認定手続・新規認定申請の流れ
事業計画認定の手続きの流れは、資源エネルギー庁が公開している「発電設備を設置するまでの流れ」で詳しく解説されています。ここでは「発電設備を設置するまでの流れ」をもとにポイントを押さえつつ、認定手続のプロセスを簡単にご説明します。
以下、低圧・高圧に分類して認定手続きの大まかな流れをまとめました。
低圧物件の手続きの流れ | 高圧物件の手続きの流れ |
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上記のうち、事業計画認定の申請は「固定価格買取制度 再生可能エネルギー電子申請」を利用して、ネット上から行うことも可能です。以下、認定申請の手順を記した操作マニュアルです。
- 再生可能エネルギー電子申請 操作マニュアル(10~50kW)
- 再生可能エネルギー電子申請 操作マニュアル(50kW以上)
なお「固定価格買取制度 再生可能エネルギー電子申請」は、認定申請だけでなく、設備運用後に必要となる定期報告や変更手続きの電子申請も可能です。
5.まとめ
2019年度までのFIT制度では、低圧物件も全量買取の適用対象となっていたのですが、2020年度から低圧物件は地域活用要件が課せられました。そのため、投資的な観点では低圧物件の魅力が低減し、収益性を重視している個人にとって太陽光発電は有力な投資先ではなくなりました。
今後、個人が投資目的で太陽光発電を始めるのであれば、全量買取の太陽光発電設備に少額投資ができる「太陽光発電ファンド」が候補に挙がります。
なぜ、太陽光発電ファンドが投資目的の運用に適しているのか、以下の記事で詳しく解説しています。「収益性を重視して太陽光発電へ投資したい」という方は、ぜひご参照ください。