投資目的なら事業用太陽光発電はやめた方がいい?理由を徹底解説
この記事の目次
2019年度まで、事業用太陽光発電は堅実な投資先として支持を集めていました。
しかし2020年度以降、とくに小規模事業用太陽光発電(10~50kW)は以下の要素によって、投資対効果が低下する可能性があります。
- FIT制度の買取価格が低下している
- 地域活用要件が設けられている
- 設置の低コスト化が鈍化している
- 出口戦略が狭まる可能性がある
上記のポイントが、小規模事業用太陽光発電の投資対効果へどのように影響するのか、具体的に解説します。
場合によっては「2021年度以降の投資はやめた方がいい」とも判断できるため、これから事業用太陽光発電へ投資をするにあたり押さえるべきポイントと、投資をする際の選択肢をいくつかご紹介します。
1.投資目的なら事業用太陽光発電はやめた方がいい?その理由とは
2019年度まで、安定的なリターンを得られる個人規模の投資先として、小規模事業用太陽光発電(10~50kW)は支持を集めていました。
しかし、2020年度以降は投資対象としてのメリットが減り、投資対効果の観点では魅力が乏しくなってしまいました。
なぜ、小規模事業用太陽光発電は「投資をやめた方がいい」と判断されるようになったのでしょうか。その理由を解説します。
1-1.FIT制度の買取価格が低下している
太陽光発電の収益性はFIT制度(固定価格買取制度)によって支えられています。
FIT制度は、再生可能エネルギーにより発電された電力を、電力会社に決まった価格で一定期間買い取ってもらえる制度です。
10kW以上の発電出力を持つ事業用太陽光発電であれば、20年のあいだ決まった価格で売電できます。
ただし、FIT制度の買取価格は毎年下がっています。以下は、2020年度を含む、小規模事業用太陽光発電における過去5年の買取価格の推移です。
年度 | 買取価格(小規模太陽光発電) |
2020年度 | 13円+税(※) |
2019年度 | 14円+税 |
2018年度 | 18円+税 |
2017年度 | 21円+税 |
2016年度 | 24円+税 |
※自家消費型の地域活用要件あり。
推移表から分かるように、小規模事業用太陽光発電の電力買取価格は低下しており、発電量あたりの売電収入は減り続けています。
また、2020年度から小規模事業用太陽光発電には「地域活用要件」が設けられており、買取価格の低下とあわせて収益性の低下を招く要因となっています。
1-2.地域活用要件が設けられている
2020年度から、小規模事業用太陽光発電には地域活用要件が設けられました。地域活用要件が設けられたことによって、小規模事業用太陽光発電には以下のような新たな義務が課せられています。
- 少なくとも発電量の30%を自家消費に充てる
- 災害時の地域活用を可能とする設備を備える
新たに課せられた前者の義務により、小規模事業用太陽光発電は電力をすべて売却できる「全量買取」の対象から外れました。
発電した電力の最大70%しか売却できないため、そのぶん収益性は低下するのです。
もう一方の義務により、災害時に活用するための設備投資が求められます。
災害時に活用するための設備が必須ではなかった2019年度と比較して、収益性に直接関係のない設備投資が必要となったぶん投資対効果は低下します。
資源エネルギー庁の資料によると、災害時の活用にあたり必要となる設備の費用は、おおむね以下の通りです。
出典:資源エネルギー庁「太陽光発電について」
上記は50kWの小規模事業用太陽光発電を想定しており、この規模では14万円程度の投資費用が必要だと想定されています。
調達価格等算定委員会の議論では、小規模事業用太陽光発電に関して「現行の地域活用要件を維持して様子を見ることとしてはどうか」といった意見が挙がっており、2021年度も同様の設備投資が求められると予想できます。
地域活用要件に伴う、小規模事業用太陽光発電における余剰買取への変更は、以下の記事で詳しく解説しました。
自家消費や災害時の活用、余剰買取と全量買取の違いについて情報を集めている場合、本記事とあわせてご参照ください。
1-3.設置の低コスト化が鈍化している
以前より、FIT制度による電力の買取価格は低下傾向にありました。
しかし、同時に太陽光発電設備の設置コストが下がっていることから、実際の投資対効果はそれほど悪化していないと考えられていました。
ただし、2021年度は設置コストが下げ止まり、2020年度と比較して安価にならない可能性があります。
以下は、小規模事業用太陽光発電の価格に関して、事業者に対するアンケートを行い調査されたデータです。
データから、2020年度に比べて2021年度のシステム価格はほとんど下がらず、例年見られるような大幅な低コスト化は期待できないと予想できます。
出典:太陽光発電協会「太陽光発電の状況 主力電源化に必要な新規案件開発継続」
ここまでの解説をもとにすると、電力の買取価格は下がり、設備投資を必要とする地域活用要件は継続される一方、太陽光発電設備の設置コストは変わらないと考えられます。
そのため、2019年度以前より投資対効果が下がった2020年度に比べて、さらに投資対効果が下がる懸念があるのです。
上記はあくまでアンケート結果であり、実際には低コスト化が進む可能性もありますが、現状のデータに基づく予想としては「低コスト化が鈍化して投資対効果は悪化する」といった推測を立てられます。
1-4.出口戦略が狭まる可能性がある
2020年度に引き続き、2021年度にFIT制度の認定を受ける小規模事業用太陽光発電にも、地域活用要件が課せられる見込みです。
地域活用要件の対象となる小規模事業用太陽光発電は、投資対効果の観点では地域活用要件のない2019年以前の案件より劣るため、多くの投資家にとって魅力的な投資対象ではなくなりました。
そのため、これまで有力な出口戦略の1つであった「中古市場に設備を売却する」といった選択が、地域活用要件のある小規模事業用太陽光発電では成立しづらい可能性があります。
地域活用要件の有無によって、買い手側が感じる投資対象としての魅力が大きく変わるからです。
2021年度以降、小規模事業用太陽光発電の運用を始める場合、出口戦略の幅が1つ減る可能性を念頭に置いておくよう推奨します。
中古市場へ売却する以外の出口戦略については、以下の記事をご参照ください。
2.どんな目的なら事業用太陽光発電は候補になる?
小規模事業用太陽光発電を中心に、投資対効果の観点では運用のメリットが乏しいことをご説明しました。
しかし、運用の目的によっては事業用太陽光発電が投資候補になるケースもあります。
ここでは、事業用太陽光発電が投資候補となるケースをご紹介します。
2-1.投資目的だけでなく地域貢献を視野に入れたい
2019年度まで、投資目的で運用されていた小規模事業用太陽光発電は、自立運転機能(停電時に非常電源として活用するための機能)が備わっていないものも多く、これらは非常電源として活用できませんでした。
地域の一画を占有しているにもかかわらず、いざというときに地域では使えない発電設備だったのです。
一方、地域活用要件の対象となる小規模事業用太陽光発電は、災害時に非常電源として地域で活用するための設備を備えることとなります。
自立運転機能を備えたパワーコンディショナを使うため、停電により外部からの電力供給が期待できなかったとしても、設備単体で非常電源として地域で活用できるのです。
そのため、地域活用要件が課せられる小規模事業用太陽光発電は、2019年度以前の案件より投資対効果は低い傾向にある一方で、地域貢献の観点では優れているといえます。
2-2.環境保全への参画に意義を感じる
2021年現在、日本は電力供給の大部分を火力発電に頼っています。
火力発電は石炭や石油などの化石燃料によって稼働しており、化石燃料を燃やすと二酸化炭素が発生することは、皆さんもご存知でしょう。
火力発電によって排出された二酸化炭素は地球温暖化の原因となり、ひいては気温上昇による異常気象や生態系の破壊を招きます。
これらの問題を抑制するためには、二酸化炭素排出の原因となる火力発電に依存せず、太陽光発電を始めとする再生可能エネルギー発電を普及させなければなりません。
そのため、新たに太陽光発電設備を建設して発電事業を始めることは、エネルギー問題や地球温暖化の解決に繋がるのです。
日本の火力発電は燃料調達を海外輸入に依存しているため、再生可能エネルギーを普及させればエネルギー自給率の改善も期待できます。
以上の理由から、事業用太陽光発電は「環境保全を兼ねた投資先」として検討の余地があります。
3.50kW以上なら投資対効果の低下は限定的だが……
高圧物件に分類される50kW以上の太陽光発電設備であれば、地域活用要件の対象になりません。
発電した電力をすべて売却できる全量買取を選べるため、2021年度以降も小規模事業用太陽光発電ほど投資対効果は低下しないものと考えられます。
ただし、高圧の事業用太陽光発電は投資額が少なくとも5,000万~1億円規模になり、個人が1基目の投資先として運用することは困難です。
このような場合、少額から高圧の太陽光発電設備に投資ができる「太陽光発電ファンド」は、投資先候補に挙がります。
以下の記事では、数十万円から全量買取の事業用太陽光発電に投資できる、太陽光発電ファンドの仕組み・利回り・リスクについて解説しています。
収益性を重視した太陽光発電事業への投資をお考えであれば、ぜひご参照ください。
4.まとめ
2020年度を境に、小規模事業用太陽光発電は投資対効果が著しく下がってしまいました。
この傾向は2021年度も続くことが予想されるため、小規模事業用太陽光発電は収益性を最重視した運用には不向きです。
投資以外に地域貢献や環境保全を目的とするなら、2021年度以降も投資先として候補に挙がります。
しかし、リターンのみに注目するなら、太陽光発電以外の資産運用や太陽光発電ファンドに目を向けることをおすすめします。