エネルギーミックスとは?2030年に向けたエネルギー問題解決への取り組み
この記事の目次
日本が2030年度の実現を目指している「エネルギーミックス」をご存知でしょうか?
ここでは「エネルギーミックス」とは何か、具体的に日本がどのような課題に直面しているのかご説明します。
今後、エネルギーにまつわる課題の解決を目指す日本のために、何か貢献できることはないか探している方はぜひご参照ください。
1.エネルギーミックスとは?
エネルギーミックスとは、複数の発電方式を組み合わせて、社会全体に供給する電気をつくることです。
各発電方式には得意不得意があるため、特定の方法に頼っていると安定的な電力供給ができません。
たとえば、日本は電力供給のために主要電源として火力発電を使っていますが、火力発電を稼働させるために必要な化石燃料が世界的に高騰すればどうなるでしょうか。
あるいは、化石燃料の輸出入がストップするとどうなるでしょう。現状のまま、火力発電による電力供給を維持できないことは容易に想像できます。
発電方式を組み合わせて電力供給をおこなうエネルギーミックスの実現は、日本のエネルギー供給網を強化し、私たち国民が安心して電気を利用するために不可欠なのです。
2.日本が抱えるエネルギーの課題
日本はエネルギーに関して、いくつかの課題を抱えています。
ここでは課題を3つに分類し、日本にエネルギーミックスが求められる背景についてご説明します。
2-1.主要電源が持続可能な発電方式ではない
日本は電力供給の大部分を火力発電に頼っています。2019年時点の情報によると、電源構成のうち火力発電が占める割合は7割を超えています。
出典:環境エネルギー政策研究所「2019年(暦年)の自然エネルギー電力の割合(速報)」
火力発電は地球温暖化の原因となる二酸化炭素を多量に排出し、有限の資源である化石燃料(石炭・石油・天然ガスなど)を使う、持続可能な電力供給には適していない発電方式です。
そのため、エネルギーミックスによって火力発電の割合をおさえ、火力発電だけに頼らない電力供給の体制構築が求められています。
二酸化炭素排出により深刻化する地球温暖化の影響、世界的な地球温暖化対策の枠組みであるパリ協定について、以下の記事で解説しています。
パリ協定は「日本が火力発電以外の方法を推進する理由」の1つでもあるため、持続可能な社会に関心のある方はこちらもご参照ください。
2-2.燃料調達を海外からの輸入に依存している
日本の主要電源である火力発電は、化石燃料を燃やして電気をつくっています。
化石燃料の調達は海外からの輸入に依存しており、とくに原油(石油)に関しては取引相手の9割近くが中東です。
出典:エネ百科「日本が輸入する化石燃料の相手国別比率」
ある地域が抱える政治的・軍事的・社会的緊張が、経済情勢や商品価格を変動させるリスクを「地政学的リスク」と呼びます。
原油の輸入先の9割を担う中東は、政治利用のために原油の価格を引き上げたり、原油の輸出を制限したりといった過去があるため、とくに原油に関しては地政学的リスクが高いといえるでしょう。
火力発電は発電コストに占める燃料費の割合が大きく、燃料価格が高くなれば発電コストは高騰するため、燃料調達を特定地域に依存している現状は思わしくありません。
また、燃料調達を海外輸入に依存しているままでは、日本の課題であるエネルギー自給率の低さも改善できないのです。
日本は国土面積が狭く、資源に乏しい国であるため、海外輸入に依存する現状からの脱却が必要です。
2-3. 原子力発電所の再稼働に難航している
2010年ごろまで、日本の電力供給の25~30%程度を原子力発電が担っていたため、電源構成はいまほど火力発電一色ではありませんでした。
しかし、2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震によって生じた大津波による福島第一原子力発電所事故を機に、日本の原子力発電所の多くが稼働停止となりました。
以下は、日本における電源構成の推移を示したデータです。
出典:エネ百科「電源別発受電電力量の推移」
2011年以降、原子力発電による発電電力量の割合は一気に低下し、以降は10%以下を推移しています。
2021年1月18日時点では、再稼働した9基のうち3基のみが実際に稼働しており、そのほかの原子力発電所は多くが停止中・廃炉といった状態です。
出典:資源エネルギー庁「原子力発電所の現状」
原子力発電所の安全性を疑問視する声も多く、原子力発電所が再び本格稼働する見込みは立っていません。
ただし、火力発電に頼る状況を脱し、エネルギーミックスを実現させるには原子力発電所の再稼働が必要です。
福島第一原子力発電所事故のような惨劇が繰り返されないよう、安全性が保証された原子力発電所を建設し、国民の理解を得ることも日本が向き合うべきエネルギー問題の1つです。
3.エネルギーミックスにおける各電源の役割
複数の発電方式を組み合わせるエネルギーミックスにおいて、それぞれの発電方式には「ベースロード電源・ミドル電源・ピーク電源」と呼ばれる3つの役割が与えられます。
電源の分類 | 概要 |
ベースロード電源 | 発電コストが比較的低く、継続的に安定して発電できる電源 |
ミドル電源 | ベースロード電源に次いで発電コストが低く、電力需要に応じて柔軟に出力を調整できる電源 |
ピーク電源 | 発電コストは高いものの、電力需要に応じて柔軟に出力を調整できる電源 |
上記の表のとおり、発電コストと出力調整の特性を考慮して分類されています。
なお、出力の調整が難しい太陽光発電や風力発電は、ここまでに解説した電源とは異なる位置付けとなっています。
出典:エネ百科「電力需要に対応した電源構成」
太陽光発電は非常用電源として利用可能であり、風力発電も大規模に開発できれば火力発電と遜色ない発電コストであるため、技術革新による安定的な発電の実現が待たれます。
3-1.ベースロード電源
日本では、発電コストが比較的低い以下の発電方式を、継続的に安定して発電できるベースロード電源として利用しています。
電源の種類 | 特徴 |
石炭火力発電 | 火力発電のなかでは地政学的リスクが低く、ほかの化石燃料に比べて経済性に優れているものの、二酸化炭素の排出量が多い |
原子力発電 | 発電コストは比較的低く、二酸化炭素を排出しない電源であるものの、安全性への課題から現在は発電所の多くが稼働を停止している |
水力発電 | 建設場所に制約が多いものの、発電効率はほかの発電方式より高く、再生可能エネルギー発電の主力として期待されている |
地熱発電 | 開発リスクが高く採算性に課題があるものの、安定的な発電が可能であり、日本の豊富な地熱資源の活用方法として期待されている |
東日本大震災以前は、水力発電と原子力発電がベースロード電源として機能していました。
しかし、福島第一原子力発電所事故のあとは、稼働停止となった原子力発電所による不足を補う形で、石炭による火力発電がベースロード電源として組み入れられています。
また、割合は小さいものの、再生可能エネルギー発電の一種である地熱発電もベースロード電源を担っています。
3-2.ミドル電源
ミドル電源とは、ベースロード電源に次いで発電コストが低く、電力需要に応じて柔軟に出力を調整できる電源のことです。
電源の種類 | 特徴 |
天然ガス火力発電 | 石油に比べて地政学的リスクが低く、二酸化炭素の排出量は少ないものの、液化や輸送にかかるコストが大きい |
LPガス火力発電 |
火力発電のなかでは二酸化炭素の排出量が少ない、ガスによる発電がミドル電源として活用されています。
3-3.ピーク電源
ピーク電源は、電力需要に応じて柔軟に出力を調整できる電源のことです。
電源の種類 | 特徴 |
石油火力発電 | 火力発電のほか、自動車の燃料や製品生産にも使われる優秀な資源であるものの、とくに地政学的リスクが高い |
揚水式水力発電 | 水力発電に比べて発電コストが高いものの、発電量の調整が容易であるため機動的に扱える |
火力発電は石油のイメージが強いですが、2019年時点では電力構成全体の2.6%です。
4.エネルギーミックス実現のために何が必要なのか
資源エネルギー庁が公表する「2030年エネルギーミックス実現へ向けた対応について~全体整理~」をもとに要点を洗い出すと、2030年のエネルギーミックス実現のために必要な要素としては、以下の4つが挙げられます。
- 産業・家庭・輸送の省エネルギー化を進める
- 再生可能エネルギー発電の普及拡大を促進し、主力電源にする
- 原子力発電の安全性を向上させ、防災対策・事故後対応を強化する
- 火力発電は低炭素化を進め、燃料供給網を強化する
家庭の省エネルギー化は個人でも取り組めそうですが、エネルギーミックスを実現させるための取り組みは、その多くが国・大企業でなければ難しいように思えます。具体的に、私たち一人一人にできることはあるのでしょうか?
5.個人がエネルギーミックスの推進に貢献する方法
一見すると、個人でエネルギーミックスの推進に貢献することは難しく思えます。
しかし、再生可能エネルギー発電の普及拡大に関しては、個人でも始められる活動がいくつかあります。
5-1.太陽光発電設備の設置
家屋の屋根に太陽光発電パネルを設置する「住宅用太陽光発電」であれば、初期費用は100~300万円ほどです。
設置以降は発電した電気を自宅で使えるため、光熱費削減の手段や停電時の非常用電源として活用できます。
また、FIT制度(固定価格買取制度)により、住宅用太陽光発電は設置から10年のあいだ、つくった電気を電力会社に一定の価格で買い取ってもらうことが可能です。
基本的に、中長期的には投資額を回収できる計算であるため、個人がエネルギーミックス推進のためにとれる現実的な選択肢の1つだといえるでしょう。
5-2.太陽光発電ファンド
太陽光発電ファンドは、出資を通じて間接的に太陽光発電事業に携わり、太陽光発電事業の収益に基づいて分配金を受け取れる金融商品です。
前述した住宅用太陽光発電のように、自宅の光熱費削減や停電時の非常用電源としては利用できませんが、数十万円から太陽光発電の普及拡大に貢献できます。
また、株式や投資信託のように日々の値動きがなく、金融市場を確認する必要がないため、本業に支障をきたさない副収入源として優位性があります。
エネルギーミックスの推進に貢献しつつ、資産を預ける先として太陽光発電ファンドが適しているのか、以下の詳細記事を参考にご判断ください。
6.まとめ
さまざまな発電方式を組み合わせて、安定したエネルギー供給網をつくるエネルギーミックスについてご説明しました。
「日本がどのようにエネルギーミックス実現を目指しているのか」を理解することで、私たち個人に取り組めることが浮かび上がってきます。
現実的な選択肢として、ここまで解説したような太陽光発電設備の設置や太陽光発電ファンドがあることを、念頭に置いていただけると幸いです。