相続手続きに戸籍謄本は必要?取得手続きについても解説
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相続が発生すると遺族は悲しむ暇もないほど様々な手続きに忙殺されます。
相続関連の一連の手続きを行う際に、まず用意しなければならないのが「戸籍謄本」です。
戸籍謄本は、相続でもない限り意外と目にすることの少ない書類です。
このため、いざ相続のために戸籍謄本を集めようとしても、どこの役所に何を請求すればいいのかわからないことがあります。
実は「戸籍」にも様々な種類があります。
しかし「戸籍謄本」と「除籍謄本」の違いや「改製原戸籍」の意味などを正確に理解している方はそう多くないでしょう。
そこで、戸籍謄本の種類や取得方法などを解説します。
- 遺産分割協議や預貯金口座の凍結解除などのために戸籍謄本が必要
- 戸籍には現在戸籍、除籍、改製原戸籍の3種類がある
- 相続では被相続人の最後の戸籍からさかのぼって出生までのすべての戸籍を収集する
相続でなぜ戸籍謄本が必要か
親族が亡くなり相続が発生すると、戸籍謄本を取得しなければならない場面にしばしば出会います。
そもそも、相続で戸籍謄本が必要とされる理由はどこにあるのでしょうか。
相続人を確定しないと遺産分割ができない
相続で戸籍謄本を必要とするのは、基本的には遺産分割のためです。
遺産分割協議が成立するためには、相続人全員の合意が必要です。
このため、遺産分割協議を行う前に、戸籍謄本を調査して相続人を確定しておく必要があります。
相続人の一部を欠く遺産分割協議は無効
相続人からすると「戸籍謄本を取得しなくても誰が親族かはわかっている」と思われるかもしれません。
しかし、親族も把握していない、被相続人の認知した子どもがいるようなケースもときどきあります。
そのような場合に戸籍謄本を調査せず、相続人の一部が参加しない状態で遺産分割協議が行われると、その遺産分割の全部または一部が無効となります。
結局、除外された相続人を含めて一から遺産分割をやり直さなければなりません。
遺産分割協議は相続人全員が参加することが条件となるため、念のため遺産分割に先立ち、戸籍謄本を収集して親族の範囲を明らかにすることが行われます。
また、戸籍謄本は外部に対して相続人の範囲を明らかにする客観的な資料です。
後で詳しく説明するように故人の預貯金口座の凍結を解除する際に、金融機関から戸籍謄本の提出が求められます。
亡くなった人が生前に不動産経営を行っていたようなケースや自宅を所有しているケースでは、不動産の相続のために登記が必要です。その相続登記の際にも、戸籍謄本が必要となります。
遺族のだれもが「相続人が他に現れることがない」との確信を持っている場合であっても、結局は相続に関する各種の手続きの中で戸籍謄本の提出が求められます。
このように、戸籍謄本は様々な場面で必要となる書類のため、遺産分割の前にまずは戸籍謄本を取得しておくとよいでしょう。
遺産分割後に相続人となったケース
相続人の一部を除外した遺産分割協議は無効という話をしましたが、これと似て非なるケースとして、戸籍調査の時点では相続人ではなかった人が遺産分割協議後に相続人となるというものがあります。
よく例に挙げられるのは、被相続人の死亡後に、血縁上の子どもが認知の訴えを起こして強制的に認知が認められ、後から相続人の地位を獲得するケースです。
遺産分割協議の時点で相続人でなかったという場合には、遺産分割自体は無効とはなりません。
しかし、元々の相続人は、後から相続人となった人に対して、本来であれば相続人として受け取れるはずであった遺産に相当するお金を支払う必要があります。
預貯金口座の凍結解除にも必要
被相続人名義の預貯金口座は、本人が死亡すると凍結されて入金や出金ができなくなります。
実際は死亡届を出したら勝手に凍結されるというわけではありませんが、親族からの申告などによって金融機関が死亡の事実を把握するとすぐに凍結されます。
預貯金口座を凍結されると、亡くなった人の生前の病院代や家賃などの支払いすらままならないこともあるでしょう。
このため、相続人としてはできるだけ早く凍結を解除したいと考えるものです。
預貯金口座の凍結解除のためには、遺言又は遺産分割協議によって預貯金の分配方法が決まっていることを、金融機関に示さなければなりません。
このため、金融機関に対して遺言や遺産分割協議書を提出する必要があります。
これとあわせて、金融機関からは戸籍謄本や除籍謄本などの提出も求められます。
金融機関としては、戸籍謄本等によって親族関係を独自に確認して、遺言や遺産分割協議の有効性などを把握する必要があるためです。
以下は、預貯金口座の凍結解除のために金融機関から求められることの多い書類です。
金融機関によって必要書類は異なることがあるため、実際に凍結解除を行う場合には事前に金融機関に問い合わせておきましょう。
金融機関に提出する代表的な書類 | |
遺言がある場合 |
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遺産分割協議を行う場合 |
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相続手続きにおける戸籍謄本の集め方
次に、相続手続きのため戸籍謄本をどのように収集すればよいのか説明します。
戸籍謄本の種類
「戸籍謄本」とは役所に登録されている戸籍のすべての内容の写しをいいます。
戸籍謄本には本籍地のほか、氏名、生年月日、父母の氏名、出生地などの記載があります。
また現在では、戸籍自体がデジタル化されていることが一般的です。
デジタル化された戸籍謄本を正式には「戸籍全部事項証明書」と呼びます。
戸籍には次の3種類があります。
現在戸籍 | 現在の戸籍 |
除籍 | 死亡や婚姻などによって出ることとなった従前の戸籍 |
改正原戸籍 | 戸籍法改正によって作り変えられる前の戸籍 |
一般的に戸籍謄本とは、現在戸籍である「戸籍全部事項証明書」のことです。
ただし、多くの人は結婚などを機に、出生時点で入っていた戸籍から抜けて新しい戸籍を作成しています。
このため、相続の場面では被相続人の出生から死亡まで、以前の戸籍である「除籍謄本」を含めたすべての戸籍を調査する必要があります。
また、調査の際は「改製原戸籍」にも気をつけなければなりません。
日本の戸籍は戸籍法に基づき作成されています。そして、戸籍法が改正される度に戸籍が作り変えられているのです。
このため、被相続人の出生から死亡までの間に戸籍法改正があった場合、戸籍法改正前の戸籍謄本も別途収集する必要があります。
その戸籍法改正前の戸籍を「改製原戸籍」といいます。
大きな戸籍法改正があったのは1957年と1994年です。
1957年の戸籍法改正では、従来の家単位の戸籍から夫婦と子どもを中心とした現在の戸籍に様式が変更されました。 1994年の戸籍法改正では、従来の手書きの戸籍がデジタル化されています。
裏を返せば、1994年以前の戸籍は手書きです。
筆文字や旧字体であることも多いため、デジタル化されていない戸籍を見る場合には間違いのないように細心の注意を払って解読する必要があります。
このほか「戸籍抄本」というものがあります。
戸籍抄本とは、戸籍に入っている一部の人のみの情報を掲載したものです。
相続では親族関係をすべて調査する必要があるため、戸籍抄本ではなく戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)を取得することに注意が必要です。
戸籍謄本を請求する方法
戸籍謄本は本籍地の市町村役場に請求する必要があります。
現住所と本籍地が異なる場合、現住所の市町村役場では取得できません。
本籍地が現住所から遠方にあるというケースは少なくありません。
このような場合でも、通常は郵送で戸籍謄本を請求することができます。
相続が発生した場合の戸籍調査として最初に行うべきことは、被相続人の死亡時点における最後の本籍地を管轄する市町村役場で戸籍を取得することです。
死亡時点における戸籍謄本には、被相続人がその戸籍に入る前にどこの戸籍に入っていたかが記載されています。
次に一つ前の戸籍の本籍地を管轄する市町村役場に対して、戸籍謄本又は除籍謄本を請求します。
また、1957年と1994年の戸籍法改正をまたぐ場合には改製原戸籍も忘れずに収集しましょう。
このような作業を繰り返すことで、被相続人の出生まですべての戸籍を遡ることができます。
戸籍をすべて取得したら、戸籍を一つ一つ読み解いて「相続関係説明図」にまとめておくとよいでしょう。
「相続関係説明図」とは、いわゆる家系図のようなものです。
被相続人と相続人の親族関係を図式化し、氏名・出生日・死亡日・住所などを記載します。
なお、相続に関する手続きを弁護士や司法書士に依頼する場合、一部の士業に認められている職務上請求という職権によって、本人に代わって戸籍謄本を取得することが出来ます。
まとめ
「戸籍」という仕組み自体が明治時代の「家制度」の名残です。
「家」という意識の薄れた現代の日本人にとっては、戸籍自体にあまり馴染みがないことも多いと思われます。
戸籍謄本を取得しなければならないことは日常生活の中であまり起こりません。このため、身近で相続が発生して初めて戸籍を取得することも珍しくありません。
戸籍調査の際には現在の戸籍だけでなく、除籍や改製原戸籍など様々な種類の戸籍があることをまず知っておく必要があります。
相続で戸籍謄本を収集する場合、調査に漏れがないよう、一つ一つの戸籍を丁寧にたどっていくことが大切です。
本籍地が現住所から離れている場合には、すべての戸籍を集めるだけで相当の時間がかかります。
遺産が多い場合や相続人が多数いる場合には、専門家に戸籍の収集を依頼することも一つの選択肢でしょう。