仮登記とは?所有権移転仮登記がある不動産の注意点

 

この記事の目次

不動産登記を見ていると「仮登記」というものを見かけることが稀にあります。

仮登記とは文字どおり仮に行われた登記です。仮登記がある不動産を購入してしまうと、登記を備えたにもかかわらず後から不動産が他人のものになってしまうこともあります。

仮登記がどのようなものかは司法書士など登記の専門家でない限り、正確に知っている人は少ないでしょう。

そこで今回は、仮登記とは何か、特に注意が必要な所有権移転登記について説明します。

10秒でわかるこの記事のポイント
  • 仮登記とは、後に行う所有権移転登記などのために、あらかじめ登記上の順位を確保しておく予備的な登記
  • 仮登記は、権利変動が生じているか否かによって1号仮登記と2号仮登記がある
  • 所有権移転に関する仮登記のある不動産の購入は危険であることが多い

1.仮登記とは

そもそも「登記」とは、不動産に関する権利関係を第三者に公示する仕組みです。不動産登記に記載された情報はだれでも自由に閲覧できます。

例えば、不動産を売買したら不動産の所有者を買主に変更する旨を記録するために所有権移転登記を行います。これを「本登記」といいます。本登記されることにより、現在の不動産所有者が買主であることを売主だけでなく、第三者も確認できるのです。

「仮登記」とは、後から行われる所有権移転登記などの本登記のために、あらかじめ登記上の順位を確保しておくための予備的な登記です。

不動産登記に「所有権移転仮登記」などの記載があれば仮登記があるとわかります。

なお、不動産登記に関しては、以下のとおり改正がありました。

1-1.仮登記をする目的

例えば、不動産売買契約に基づき代金の支払いが完了して売主から買主に対して不動産の所有権が移転したとします。

通常であれば、代金の支払いと同時に本登記である所有権移転登記の申請を行います。

しかし、何からの事情により売主が登記申請手続きに協力してくれないことや、売主が登記に必要な登記識別情報を紛失してしまいすぐに登記申請ができないといった事態も起こりえます。

このような場合に本登記ができるまで何もしないでいると、その間に売主が別の人へ不動産を売却し所有権移転登記をしてしまったら、その別の買主に対して不動産の所有権を主張できません。

なぜかというと、民法のルール上、一つの不動産が二重に売買された場合にだれが所有権を取得するかは、どちらが先に契約を締結したかではなく、先に登記を備えた方が優先することになっているためです。

たとえ売買代金を支払っていたとしても、買主は登記を備えていないとその不動産を得ること自体かないません。

このように、本来は売買代金の支払いと同時に行うべき所有権移転登記が何らかの事情で行えない場合であっても、登記をする権利を保全するための方法が仮登記です。

本登記ができない場合に仮登記をしておけば、必要な書類や条件が整ったときに、仮登記をした日にさかのぼって本登記が行われます。

ここでのポイントは「仮登記をした日にさかのぼる」という点です。

通常の登記は、登記をした日付の先後によって権利関係が決まります。

二重売買であれば、契約をいくら先にしていても登記の日付が劣後すれば、不動産の所有権を得ることはできません。

しかし仮登記をしておけば、仮登記後に第三者が所有権移転登記をしたとしても、後からさかのぼって第三者の登記よりも先の日付で本登記ができます。

要するに、本登記の日付を先に押さえるのが仮登記です。これを専門的には「順位保全効」といいます。

ただし、仮登記のままでは、本登記が持つ効果である、権利者であることを契約当事者以外の第三者に主張するための「対抗力」はありません。権利を主張するためには本登記をする必要があります。

なお、買主は、売主の二重売買などが原因で不動産の所有権を失った場合、売主に対して支払った売買代金の返還を求めることはできます。

しかし、実際に二重売買をするような売主はそのまま雲隠れするか、二重に受け取った代金を借金返済などのため費消してしまい、回収できないことも多いでしょう。

2.仮登記の種類

仮登記には、利用される場面に応じて1号仮登記と2号仮登記という2つの種類があります。

両者の違いは、仮登記の時点で所有権移転などの権利変動が生じているかそうでないかという点にあります。

   
所有権移転仮登記(1号仮登記) すでに権利変動は生じているが、登記申請に必要な条件が揃わない場合
所有権移転請求権仮登記(2号仮登記) 権利変動は生じていないが、請求権が発生している場合

2-1.所有権移転仮登記(1号仮登記)

「1号仮登記」とは、所有権の移転などの権利変動はすでに生じているものの登記申請に必要な条件が揃わないときに、あらかじめ順位を確保する仮登記です。

不動産登記法105条1号に定められている登記であるため、条文番号を取って「1号」仮登記と呼ばれています。

例えば、所有権移転登記に必要となる登記識別情報(権利証)を売主が紛失しているため代替する手続きを行わなければならず、登記申請をすべき日に書類の用意が間に合わないような場合に利用されます。

このほか、農地法の許可は取得しているものの、それを示す書類がまだ入手できていないという場合に行う所有権移転などの仮登記も1号仮登記です。

ただ、1号仮登記は本登記できない理由がどのようなものでも利用できるわけではありません。

例えば、登録免許税が支払えないからといって仮登記だけ行い、本登記を先延ばしすることはできません。

2-2.所有権移転請求権仮登記(2号仮登記)

「2号仮登記」とは、権利変動はまだ生じていないが権利変動を生じる請求権が発生している場合に、登記の順位を保全するために行う仮登記をいいます。

1号仮登記と同様に、条文番号を取って「2号」仮登記と呼ばれています。

2号仮登記が利用される典型的な場面は、所有権移転などの権利変動が条件付きとなっている場合です。

例えば、農地の売買契約は農地法により規制されており、農業委員会又は都道府県知事等の許可を受けないと権利変動の効果が生じません。

したがって、農地の売買では、農地法上の許可を取得したことを条件として不動産売買契約が締結されます。

この場合に、農地法の許可がまだ取得できていない段階で行う仮登記が2号仮登記です。

将来、農地法の許可を取得して買主が農地の所有権を取得したときに、所有権移転登記の本登記を行います。

農地の売買では、1号仮登記は農地法の許可を取得した後に利用し、2号仮登記は農地法の許可の取得前に利用する仮登記ということになります。

3.不動産に仮登記があるときの注意点

不動産投資を行う人にとっては、不動産登記に仮登記の記載がある不動産を購入してよいのかどうかが気になるところだと思います。

3-1.所有権移転の仮登記

基本的には、仮登記の記載がある不動産は注意が必要です。

なかでも「所有権移転」に関する仮登記がある不動産は購入すべきでないことが多いでしょう。

例えば、買主Cさんが、所有権移転に関するBさんの仮登記がある不動産を購入して所有権移転登記を備えたとします。

その後、Bさんが仮登記に基づく所有権移転の本登記をすると、Cさんの所有権移転登記はBさんの所有権移転登記よりも後の順位となり、Cさんの登記は抹消されます。

上でも説明したとおり、登記の順位によって誰が所有権を確定的に取得するかが決まるため、Cさんは購入後すぐに所有権移転登記を備えたとしても、先に仮登記を備えていたBさんに勝つことはできないのです。

Cさんからすると、どれだけ価格が安かろうと所有権移転の仮登記が入っている不動産を購入するメリットはありません。不動産の所有権をいつ失ってもおかしくないためです。

以上から、所有権移転に関する仮登記がある不動産は購入しないのが基本的な対応です。

仮に購入するのであれば、売主に交渉して仮登記の抹消を条件として売買契約を締結するほかありません。

3-2.条件付き賃借権設定仮登記

仮登記は所有権移転に関するものだけではありません。

最近ではめったに見かけることはありませんが、条件付き賃借権設定仮登記というものもあります。

この仮登記が利用されるようになった背景として、バブル崩壊後に金融機関による不動産の競売を妨害するために、高額な立退料などを要求する「占有屋」などと呼ばれる反社会的勢力が物件に居座ることが多発したことがありました。

そこで、金融機関が優先的に競売物件の賃借権を取得して占有屋による妨害を阻止するため、あらかじめ条件付き賃借権設定仮登記を入れておくようになりました。

つまり、条件付き賃借権設定仮登記は金融機関がローンの返済を確実に受けるためのものなので、ローンの返済が完了しているのであれば不要です。

このため、条件付き賃借権設定仮登記がある不動産に関しては、売主にローンの返済が終わっているのか確認し、終わっている場合には決済・引渡し日までに仮登記を抹消することを条件として売買契約を締結すれば足ります。

ただ、上で説明したような占有屋による強制執行等の妨害自体、昨今はほとんど行われていません。

このため、最近の不動産に条件付き賃借権設定仮登記がついていることはまずないといっていいでしょう。

4.まとめ

仮登記がついている不動産はそれほど多くないため、何度も不動産売買を行っている不動産投資家であっても、目にしたことの無い方が多いでしょう。

不動産の購入の際に不動産会社が仲介しているのであれば、仮登記の危険性や抹消の交渉について依頼することができます。しかし、不動産投資家によっては仲介を依頼せず、直接当事者と取引をすることがあります。

このような場合には、不動産投資家みずから権利関係を調査しなければなりません。

不動産登記の取り寄せは調査の基本であるため実施していることは多いと思われます。その際に仮登記を見落としたり、仮登記の意味を知らず「仮」だから問題ないだろうと安易に考えてしまうと後から痛い目を見ることがあります。

現物の不動産投資をトラブルなく行うためには、土地や建物についてだけでなく、それに伴う権利関係、法律なども詳しく理解するための勉強が必要でしょう。


前へ

不動産投資のリスクは11個!それぞれのリスク対策を解説

次へ

災害時の備えは十分?対策チェックリストで今すぐ確認