不動産証券化とは?投資家が知っておきたい基礎知識を解説
この記事の目次
不動産投資を検討している方は「不動産証券化」という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
不動産証券化を利用した金融商品は数多くあります。そこで、不動産証券化とはそもそもどのようなスキームなのか、また不動産証券化の歴史や今後の発展が期待されている不動産証券化商品について詳しく解説します。
- 不動産証券化により投資家は小口資金でも不動産投資に参入することが可能に
- 日本における不動産証券化はバブル崩壊後の不良債権処理のニーズにより本格化した
- 空港や太陽光発電設備等のインフラへの投資に注目が集まっている
1.不動産証券化とは
「不動産証券化」という言葉を正確に理解している人は実はそれほど多くはありません。そこで、不動産証券化がそもそもどのようなものであるかを説明します。
1-1.不動産証券化の意味
不動産証券化とは、投資家の目線でいえば、実物の不動産が生み出す賃料収入などの収益を受け取る権利を証券の形式に加工して小口化し、投資家が不動産に投資をしやすくした仕組みのことをいいます。
賃貸収入が見込めるような収益性の高い不動産は、一般的に価格が高く、買い手は資力のある者に限定されます。
このため、個人が不動産投資に参入することは簡単ではありません。このとき、不動産から収益を受け取る権利を小口化すれば、少額から投資が可能になるため不動産投資に参入できる人の範囲が大きく広がります。
不動産投資をする人が増えることは、不動産の処分を希望する不動産所有者にとってもメリットがあります。
後でも詳しく説明しますが、バブル崩壊後のような不況時には価値の高い不動産を購入する人が限られ、資産の処分(現金化)が容易に進まないという問題が生じます。
このとき、不動産を証券化することにより買い手が増える結果、資産の処分が進みやすくなるというメリットもあるのです。
1-2.不動産証券化の仕組み
不動産証券化の仕組みとしては、不動産の所有者が収益性のある不動産を投資ファンドに売却して自身のバランスシートから切り離し、倒産隔離等のリスク回避措置を施したうえで、投資ファンドが不動産に投資する有価証券を投資家に発行するものです。
代表的な不動産証券化商品としては、不動産の上場投資信託であるJ-REITや非上場の不動産投資ファンドであるGK-TKスキームによるものなどがあります。
それぞれのスキームの詳細は以下の関連記事で詳細に解説しています。
2.不動産証券化の目的
上でも少し触れたように不動産証券化にはさまざまなメリットがあります。そこで、以下では不動産証券化が行われる目的について詳しく説明します。
2-1.不動産所有者の資金調達
不動産証券化において、オリジネーターと呼ばれる不動産の元の所有者が所有している不動産を投資ファンドに売却し、投資ファンドが不動産を証券化して運用をします。
したがって、不動産所有者からすれば投資ファンドに対する不動産の売却によって売却金額を一括で受け取ることが可能です。
前述のとおり、不動産市況が低迷している局面では、不動産の買い手が限定されます。資産を処分して現金化したい不動産所有者にとっては、不動産証券化により、通常どおり不動産を売却するよりも資金調達がしやすくなることがあるのです。
また、不動産を所有する企業自体の業績が低迷しているような場合、企業が金融機関から資金調達をしようとすると金利が高くなるなど不利な条件での融資となりがちです。
このとき、その企業が収益性の高い不動産をもっていれば、その不動産のみを切り出して投資ファンドで運用することで、企業そのものではなく資産の信用力に着目した有利な資金調達が可能となることがあります。
このように、不動産証券化は、景気後退局面や企業の業績が低迷している局面での不動産所有者による資金調達の手法としての意味があるのです。
2-2.投資商品としての流動性の付与
不動産証券化は、不動産所有者にとってメリットがあるだけでなく投資家にとってもメリットがあります。
投資家のメリットとは、不動産証券化により流動性が付与され、換金が容易になるという点です。
不動産投資家が実物の不動産に投資をして当該不動産を売却しようとするとき、買い手の探索や買い手候補との交渉、売買契約等の手続が必要となります。
これらの手続には時間と手間を要します。これに加え、そもそも証券化されていない実物の不動産は買い手が一定の資力のある者に限定されることから、売却自体が容易なことではありません。
これに対し、不動産証券化により投資単位が小口化され投資家が投資しやすい商品となることで、不動産投資家が換金したい場合に換金することが容易になります。
このように、不動産証券化により投資商品としての流動性が高まることは不動産投資家にとってのメリットの一つです。
特にJ-REITのように証券取引所に上場された投資商品は、上場株式などと同様に投資家がいつでも市場を通じて証券の売買が可能となりますので、流動性の高さが顕著です。
ただし、GK-TKスキームを利用した不動産証券化のような非上場の商品 は、商品によって異なりますが、ファンドの運用期間中に投資家が自己の持分を売却して現金化することは原則できません。
非上場の商品は、株式市場の影響を受けにくいというメリットがある一方、自己の持分を自由に換金することが難しいというデメリットがあるのです。
非上場でありながら自己の持分を自由に換金できるようになることが望まれていますが、投資家保護の観点から現在の法制度では難しいといえるでしょう。
3.不動産証券化の歴史と展望
不動産証券化はそもそも海外で誕生した金融商品です。不動産証券化についてより深く理解するために、不動産証券化の歴史を振り返りつつ、日本における不動産証券化の今後の展望について説明します。
3-1.不動産証券化の誕生から現在
不動産に限らず「証券化」と呼ばれるスキームは、1970年代のアメリカにおける住宅ローン債権の小口化商品から始まったといわれています。
なお、このアメリカにおける住宅ローン債権の証券化が行き過ぎた結果、いわゆるサブプライムローンを引き起こし、その後のリーマン・ショックの引き金を引くことになったのは有名な話です。
日本で不動産証券化の議論が本格的に始まったのは1990年代です。
この当時、バブル崩壊によって金融機関の抱えた不良債権問題を解決するため、金融機関が担保として押さえていた不動産の処分を容易にする必要に迫られました。
このとき、上でも説明したように不動産を小口化して売却しやすくするために不動産証券化が行われたのです。
つまり、日本における不動産証券化は、不動産を売却して現金化するニーズから始まったといえます。
その後、2001年に、従来の「証券投資信託法」が「投資信託及び投資法人に関する法律」(投信法)に改正され、J-REITの組成が法的に可能となりました。
これにより、当初不動産証券化の目的とされた不動産の処分の促進ではなく、資産運用を目的とした本来的な投資商品としての不動産証券化が急速に広まることになりました。
この頃から現在に至るまで、上場投資信託であるJ-REITとは異なり、非上場の投資ファンドにおける投資も盛んに行われています。
非上場の不動産証券化商品としては、機関投資家向けの私募REITのほか、個人投資家も投資可能なGK-TKスキームの投資ファンドなど様々な商品があります。
3-2.不動産証券化の今後の展望
不動産証券化により、元々実物の不動産の売買として行われていた不動産投資を金融商品として扱うことが可能になりました。
これにより、従来は株式をはじめとして金融市場に投資されていた資金の一部が不動産市場に流入することとなりました。これを、「不動産と金融の融合」などということがあります。
ただし、日本でも不動産証券化が盛んになってきたとはいえ、2019年時点で、賃貸オフィスや商業施設など典型的な収益不動産が日本には約224兆円あり、そのうち証券化されている不動産は約33兆円 にとどまるとされています(出所:国土交通省 土地・建設産業局不動産市場整備課「不動産投資市場の現状と最近の動きについて」)。
このため、不動産証券化により不動産市場に資金が流入する余地はまだまだ残っています。
また、これまで不動産証券化の投資対象は、オフィスビルや住宅、商業施設など伝統的に収益不動産とされていたものがメインでしたが、最近ではヘルスケア施設や空港、港湾、道路、発電設備などの社会インフラへも投資が広がりつつあります。
発電設備や道路などといったインフラへの投資は、オフィスビルなど伝統的な不動産への投資と比較して景気変動の影響を受けにくい性質を持ちます。
このため、長期的に安定した投資が可能であるとして注目を集めています。
このように不動産証券化による投資対象が広がることによって、公益性のあるインフラ整備にも余剰資金が有効活用されることが期待されています。
このほか、不動産クラウドファンディングなど新しい仕組みも登場しています。
さらに将来的には、不動産のトークン化によって非上場でありながら自己の持分を自由に換金できる、これまでにないまったく新しい不動産投資商品が誕生するかもしれません。
4.まとめ
証券化スキーム自体は、かつて世界を不況に陥れたアメリカのサブプライムローン問題と紐づけて記憶されている方も多いと思われます。
実際に、サブプライムローンとこれに続くリーマン・ショックの影響を受け、日本の不動産証券化においてもJ-REIT一社の破綻という想定外の事態が発生しました。
このため、リーマン・ショック以後しばらくは不動産証券化の投資商品としての人気が低迷していた時期がありました。
もっとも、リーマン・ショックの反省をもとに、非上場の投資ファンドや太陽光発電ファンド・港湾等へ投資するインフラファンドなど、景気の変動を受けにくい投資商品も開発されています。
これにより、最近では不動産証券化商品が多様化し、個々の不動産投資家のニーズに合った商品を選びやすくなっているのです。
その反面、同じ不動産証券化商品であってもファンドの採用するスキームや想定されるリスクがそれぞれ異なります。
不動産証券化商品への投資を考えている場合には、それぞれの投資ファンドの投資対象やリスク、運用会社の信用性などを十分に比較検討して投資判断をすることが重要といえるでしょう。