不動産信託受益権とは?投資家が知っておきたい基礎知識を解説

 

この記事の目次

不動産ファンドへの投資では、投資対象が不動産そのものではなく不動産信託受益権となっているケースがあります。

「信託」という文言から信託銀行が絡んでいることは推測できるものの、実際にどのような仕組みであるかは複雑でわかりにくい面もあるでしょう。

そもそも「なぜ」現物のまま不動産を保有せずに信託受益権とするのかは、不動産ファンドを理解する上で重要なポイントです。

そこで、不動産信託受益権とは何か、また不動産ファンドが信託受益権を保有する理由について解説します。

10秒でわかるこの記事のポイント
  • 不動産信託受益権とは、投資対象不動産を信託銀行等に信託し、受益者がその資産から発生する利益を受け取る権利のこと
  • GK-TKスキームでは不動産特定共同事業法の適用を回避するため信託受益権とする
  • GK-TKスキーム以外でも、さまざまなメリットから不動産を信託受益権化することがある

1.不動産信託受益権とは

不動産信託受益権」とは、委託者が不動産を信託銀行等(受託者)に信託し、受益者がその資産から発生する経済的利益の配当を受け取る権利のことをいいます。

不動産信託受益権は、金融商品取引法で定められた有価証券の一つです。

株式など流通性の高い典型的な有価証券と区別して、不動産信託受益権のことを「みなし有価証券」「2項有価証券」と呼ぶことがあります。

1-1.不動産信託受益権の仕組み

「信託」とは、委託者との間で契約をした受託者が、一定の目的達成のために必要となる財産の管理又は処分等の行為を行う仕組みをいいます(信託法2条1項)。

信託自体は、不動産証券化だけに利用される仕組みではありませんが、不動産ファンドではよく活用されています。

不動産信託受益権における当事者は、委託者・受託者・受益者の三者です。

委託者とは、受託者に対して信託(財産等の移転)を行う者です。不動産ファンドにおいては不動産の元の所有者(オリジネーター)が該当します。

受託者とは、委託者から財産等の譲渡を受けて財産の管理や処分等を行う者をいいます。不動産ファンドにおいては信託銀行が受託者となることが一般的です。

受益者とは、信託による利益を受ける者をいいます。不動産証券化においては投資ファンド(SPC)が受益者となり、不動産の運用による収益を受け取ります。

委託者 元所有者(オリジネーター)
受託者 信託銀行など
受益者 投資ファンド(SPC)

2.不動産証券化に信託受益権が利用される理由

個人の不動産投資家が不動産信託受益権を購入することはほとんどありませんが、投資ファンドを通じて不動産投資をする場合に不動産信託受益権が利用されるのはなぜでしょうか。

2-1.不動産特定共同事業法の適用排除

不動産投資ファンドで投資対象となる不動産を信託受益権化する理由として一番多いのは、GK-TKスキームにおいて不動産特定共同事業法(通称「不特法」)の適用を免れることです。

不動産投資ファンドのスキームとしては、REIT、TMK、GK-TKスキームが代表的です。GK-TKスキームの場合、現物の不動産のまま投資をすると不特法という特別の法律が適用されることになります。

近年、不特法の改正により緩和されてきていますが 、過去には不特法が適用されると人的要件の整備や宅建業免許の取得など、単なる投資のための箱に過ぎない投資ファンドでは到底満たすことのできない厳格な要件が求められていました。

GK-TKスキームで不動産投資ファンドを組成する場合には、不特法の適用を回避するために投資対象となる不動産を信託受益権にする必要があったのです。

不動産投資ファンドが現物不動産と信託受益権のいずれに投資可能であるかをまとめたのが次の表です。

  現物不動産 不動産信託受益権
REIT
TMK
GK-TK △※

※不動産特定共同事業法の適用を回避するため、選択されにくい

2-2.信託銀行の信頼性の活用

GK-TKスキーム以外の不動産投資ファンドでも、投資対象を不動産信託受益権としているケースがあります。

信託受益権とすることには、不特法を適用回避する以外のメリットがあるためです。

信託受益権とすることのメリットとして投資家にとって重要なのは、信託受益権化する際に受託者となる信託銀行が独自に不動産のデューデリジェンスを行う点です。

不動産を信託受益権とする場合には、信託銀行が不動産の形式上の所有者となります。信託銀行としては自行が保有する不動産の適法性等を精査する必要があるのです。

独立した立場からも、投資対象についてのデューデリジェンスが行われることで、投資家としてはより安心して投資をすることができます。

投資家が安心して投資ができるということは、投資ファンドにとっても資金調達が容易であるというメリットがあります。

このように投資対象としての安全性を担保するために、あえて不動産信託受益権を投資対象とすることもあるのです。

2-3.税制上の優遇措置

不動産信託受益権とするメリットとして、現物の不動産を取得する場合と比較して、以下のとおり不動産取得税や登録免許税、印紙税が大幅に軽減されている点が挙げられます(2020年11月28日時点)。

登録免許税に関しては、現物の不動産のまま取得すると最大で固定資産税評価額の2%の税金を支払う必要があります。

たとえば、不動産の価格が10億円である場合の登録免許税は最大で2000万円となる計算です。これに対し、信託受益権であれば不動産1個について1000円です。

不動産取得税に関しても、現物の不動産を取得すると固定資産税評価額に対して最大4%の税金がかかります。これに対して、信託受益権はそもそも「不動産」ではないため不動産取得税の支払いが発生しません。

不動産価格が10億円であれば、最大で4000万円もの節税になります。

合計すると、固定資産税評価額10億円の不動産に投資する場合には、信託受益権とすることによって納税額が最大で6000万円程度少なくなります。

納税額が少なければその分投資家が得る配当金は増えますので、投資家にとっても大きなメリットがあるのです。

例)不動産の固定資産税評価額が10億円の場合

  現物不動産の取得 信託受益権の取得
登録免許税 最大2,000万円 1,000円
不動産取得税 最大4,000万円 0円
合計 最大6,000万円 1,000円

この記事ではイメージを伝えるために簡素化した計算をしていますが、実際には一定の条件を満たした場合には現物の不動産でも税金が減額されることはあります。このため、実際には上記とは数値が異なることがあります。

2-4.倒産隔離

信託法上、信託の対象となる財産は、形式上の所有者である信託銀行自身の財産と分別管理されることとなっています。

受託者である信託銀行が倒産したような場合であっても、信託受益権とした不動産が信託銀行の債権者によって差し押さえられたりすることはありません。

不動産を信託受益権とすることによって、投資対象となる資産が不動産ファンドの関係者の影響を受けにくくなります。

このため、投資家の予期しない事情によって投資ファンドの収益が外部に流出するリスクが低減できます。

3.信託受益権のデメリット

不動産ファンドが不動産を信託受益権とすることには一定のメリットがありますが、デメリットもあります。

以下では不動産信託受益権とすることのデメリットについてまとめます。

3-1.金融商品取引法の適用を受ける

投資対象の不動産を信託受益権とした場合、上でも説明した通り「有価証券」として金融商品取引法(金商法)の適用を受けます。

金商法の適用を受けると、さまざまな規制の対象となります。

不動産信託受益権のまま第三者に売却するときには、第二種金融商品取引業の登録をした仲介業者でなければ取り扱えません。

一般的に、有価証券の取引に対する規制や金融商品取引業者に対する監督は非常に厳しいため、第二種金融商品取引業登録の要件を継続的に満たせる不動産仲介業者は数少ないのが実情です。

不動産が信託受益権化されている場合には、売買一つとってみても扱える事業者が少なく、取引に伴い必要となる手続も増えることになります。

また投資ファンドが現物不動産を保有している場合と信託受益権を保有している場合とでは、信託受益権を保有している方が、必要となる手続上の負担が重くなります。

3-2.信託銀行への信託報酬が必要

不動産を信託受益権とした場合、信託を受けている信託銀行に信託報酬を支払う必要があります。

信託報酬は、投資ファンドにとっての経費となりますので、その分投資家が受け取ることのできる分配金は減少することになります。

ただし、信託報酬分が投資ファンドの収益から控除されることに関しては、投資家へのインパクトは通常それほど大きいものではありません。

3-3.不動産を信託受益権化するのは規模の大きな投資

投資対象となる不動産を信託受益権化した場合、手続上の負担や支出する経費が増大することになります。

負担増に耐えられる程度に規模の大きな投資案件であれば、信託受益権化によるメリットを享受することができるといえます。

4.まとめ

不動産信託受益権は、不動産投資ファンドではよく登場する用語です。

信託の詳しい仕組みを正確に理解している必要はありませんが、現物不動産との違いなどを知っておくと投資判断の助けになると考えられます。

近年、不動産クラウドファンディングをはじめとして、不動産投資ファンドの中にも信託受益権化せず現物不動産のまま投資するスキームも登場しています。

これらは、規模が大きくない投資案件が多く、信託受益権にするためのコストをかけずにその分を投資家への配当に回せるメリットもあるでしょう。

不動産投資への関心の高まりもあり、さまざまな投資商品が出てきていますので、自分の投資スタイルにあった投資ファンドを選ぶことが大切です。


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