不動産取引における「契約不適合責任」とは?民法改正について弁護士が解説
この記事の目次
2020年4月1日に施行された改正民法では、従来の瑕疵担保責任の概念がなくなり、新たに「契約不適合責任」が定められました。
今後、不動産取引において取引の対象となる土地や建物に欠陥があった場合には、買主が売主に「契約不適合責任」としての責任を追及していくことになります。
この記事では新しくできた「契約不適合責任」の内容、従来の瑕疵担保責任と何が違うのかについて解説します。
- 従来の瑕疵担保責任が民法改正によって「契約不適合責任」になった
- 契約不適合責任は契約違反の一種と位置づけられる
- 従来の瑕疵担保責任よりも要件や追及できる責任の内容が広がった
1.契約不適合責任とは
改正民法における「契約不適合責任」とは、売買や請負において、引渡しを受けた目的物が契約の内容に適合していない場合に買主や注文者が、売主や請負人に対して追及する責任をいいます。
1-1.民法改正で瑕疵担保責任が「契約不適合責任」に
契約不適合責任は、2020年4月1日施行の民法改正によって新しくできた制度です。
従来あった瑕疵担保責任に代わるものとして位置付けられており、民法改正によって従来の「瑕疵担保責任」の概念はなくなりました 。
新築住宅の売買に適用される住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)では、従来どおり「瑕疵」の用語が残っています。
しかし、品確法では条文上残っている「瑕疵」の文言を民法改正に合わせて契約不適合責任に読み替える旨の改正が行われているため、結論としては改正民法と同様の取り扱いになります。
1-2.瑕疵担保責任と契約不適合責任の違い
瑕疵担保責任がなくなり、契約不適合責任に代わったからといって、実はそこまで大きく変わるわけではありません。
ただし、責任を追及するための要件や責任の範囲と内容については瑕疵担保責任と異なります。
1-2-1.適用される場面・範囲
瑕疵担保責任と契約不適合責任は適用が想定される場面は基本的に同じです。
売買や請負において取引の目的となる物に欠陥があった場合の責任であることには変わりありません。
従来の瑕疵担保責任は土地や建物、一点ものの商品など代替性がなく個性に着目して取引される物(特定物)の取引のみに適用されていました。
これに対し、契約不適合責任では、代替物のある物(不特定物)に対しても適用されることとなりましたので、民法改正によって適用範囲は広がっているといえます。
1-2-2.法的性質
従来の瑕疵担保責任は「法律が認めた特別の責任」であり、契約違反などとは別の責任として整理されてきました。
しかし、契約不適合責任は、契約違反の一種であると位置付けられています。
もっとも、従来から裁判所は、「瑕疵」の存在が争われる事例では契約内容の解釈をもとに判断してきたといわれています。
つまり、瑕疵担保責任の判断においても実態としては、契約内容や当事者間の意思に反しているか否かによって、瑕疵担保責任の有無が判断されてきました。
このため、契約違反の一種と位置付けられる契約不適合責任と従来の瑕疵担保責任とでは、実際に裁判所で争われた場合の判断枠組みは大きく変わらないと考えられています。
1-2-3.責任の範囲・内容
取引の目的物に欠陥がある場合に売主や請負人に問うことのできる責任の範囲については、従来の瑕疵担保責任と契約不適合責任とで大きな違いがあります。
従来の瑕疵担保責任と契約不適合責任の違いは以下の表のようになります。
契約解除 | 損害賠償請求 | 追完請求 | 代金減額請求 | |
瑕疵担保責任 | 〇 | 〇 | 請負のみ〇 | 数量指示売買のみ〇 |
契約不適合責任 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
従来の瑕疵担保責任 の「買主や注文者」が「売主や請負人」に追及できる責任は、原則として契約解除か損害賠償請求のみでした。
請負の場合には、請負人に修理を請求することもできましたが、代金減額を求めることはできませんでした。
代金減額請求に関しては、数量指示売買という一定の数量を基礎にして代金額が定められる売買について認められるに過ぎなかったのです。
これに対し、契約不適合責任においては、従来認められていた契約解除や損害賠償請求だけでなく、売買における目的物の修理や代替物等の交付請求(あわせて追完請求といいます)のほか、代金減額請求も可能となっています。
1-2-4.「隠れた瑕疵」要件の撤廃
従来の瑕疵担保責任を追及するためには瑕疵が「隠れた」ものであることが必要でした。
「隠れた」とは、瑕疵の存在について買主が知らず、知らなかったことについて過失もなかったことを指しています。
これに対し、契約不適合責任においては、主観的な要件が撤廃されています。
責任を追及する側の認識を問題とする主観的な要件は、実際にトラブルとなった場合に証明することが難しく、責任追及のハードルを上げることがあったからです。
「隠れた瑕疵」の要件がなくなったことで、買主や注文者が責任追及をしやすくなったといえるでしょう。
2.契約不適合責任が存続する期間
買主や注文者が、売主や請負人に対して契約不適合責任を追及する場合には期間の制限が定められています。
この期間制限は、法的に厳密にいうと消滅時効と似て非なる「除斥期間」と呼ばれるものです。
消滅時効と異なるのは、当事者による請求等の行為によって期間の進行が停止しないことです。
売買や請負において契約不適合責任を追及するためには、目的物に契約不適合のあることを知ってから1年以内に不適合の事実を通知する必要があります。
「知ってから1年」という期間自体は従来の瑕疵担保責任と同じですが、従来の瑕疵担保責任では期間内に解除又は損害賠償請求をする必要があったのに対し、契約不適合責任では単に通知のみで足りることになっています。
なお、目的物に契約不適合があることを売主が知っていた場合又は重大な過失により知らなかった場合には、上記の期間制限は適用されません。
その上で、契約不適合責任の追及については消滅時効の一般的な期間に従うこととなりました。
具体的には、権利を行使できることを知ってから5年、権利を行使することができるときから10年以内に責任追及をする必要があります。
契約不適合責任の期間に関しては、民法以外の特別法において異なる規定が置かれていることがあります。
例えば、宅地建物取引業法(宅建業法) では、不動産の売主が宅建業者である場合、契約不適合の旨の通知を不動産の引渡日から2年以上とする特約のみが可能とされており、民法の定めより買主に不利益となる特約は無効とされているのです。
3.契約不適合責任は免責できるか
契約不適合責任については、契約書などで民法の規定と異なる行使期間を定めることができるだけでなく、原則として当事者間の合意によって免責することも可能です。
ただし、法律によって免責が制限されていることがあります。
3-1.BtoC取引
事業者と消費者との間の取引(BtoC取引)については、消費者を保護するため消費者契約法が適用されます。
消費者契約法8条1項1号2号によれば、事業者と消費者との取引において、事業者の契約不適合責任の全部又は一部を免責する旨の合意は無効となります。
例外として、事業者が消費者からの追完請求又は代金減額請求に応じることとされている場合には、契約不適合責任の免責規定も有効になるとされています(消費者契約法8条2項1号)。
3-2.不動産取引
土地や建物の売買契約において、売主が個人の場合には、契約不適合責任を免責する契約条件とされている事例がよくあります。
ただし、売主が宅建業者である場合には、消費者契約法の例外規定を満たしているとしても、売主の契約不適合責任を完全に免責することはできません。
売主が宅建業者である場合には消費者保護の観点から、契約不適合の旨の通知を不動産の引渡日から2年以上とする特約のみが可能となります。
3-3.新築住宅の取引
新築住宅の売買又は請負に関しては、民法に優先して住宅品質確保促進法(品確法)が適用されます。
品確法では、新築住宅の販売又は建築工事の請負において、目的物である住宅の柱や梁など住宅の構造耐力上主要な部分及び雨水の浸入を防止する部分について、売主又は請負人に引渡日から10年間の瑕疵担保責任が義務づけられています。
4.まとめ
従来の瑕疵担保責任は、特に不動産取引においては重要な意味を持つものでした。
土地建物の取引では、地中に誰も知らない古い配管が埋設されているとか、建物の上下水管に水漏れが発生するなどの場面で、しばしば瑕疵担保責任が適用されてきた経緯があるためです。
このため、不動産業界においては民法改正論議が始まった当初から、民法改正及び関連する特別法の改正において瑕疵担保責任の内容がどのように変更されるのかについて、強い関心が寄せられていました。
もっとも、民法改正によって新たにできた「契約不適合責任」では、現在のところ、契約書の記載内容や当事者の意思の解釈によって責任の有無を判断してきた従来の判断枠組みを変更するものではないと評価されています。
ただし、契約不適合責任が認められる場合の権利行使の内容の幅が広がっています。
また契約不適合責任を問うために、従来の「隠れた瑕疵」の要件がなくなり、責任追及がしやすくなった点も大きなポイントです。
このため、目的物の不具合があった場合に売主や請負人が責任を追及される場面が増える可能性もあります。
実際の運用に関しては今後、改正民法下での裁判例の蓄積を注視していく必要があるでしょう。