なぜ食糧価格は高騰しているの?主原因は異常気象
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2021年に公開された食料危機対策グローバルネットワークの報告書により、世界の急性食料不安は過去5年でもっとも深刻だと明らかになりました。2020年の時点で、世界にいる1億5,500万人以上の人々が十分な量の食品を取れない状態にいると指摘されているのです。
このような状況を招いている主な要因の1つに大規模な異常気象の多発が挙げられます。異常気象によって作物の収穫量が減少し、需給バランスが乱れて高騰を起こしているのです。途上国では、食糧が人々の手に届かない価格に高騰しているケースもあるようです。
ここでは異常気象に代表される食糧価格高騰の原因を解説し、私たちは食料問題へどう向き合えば良いのか述べます。
1.食糧価格はどのくらい高騰しているの?
国連食糧農業機関(FAO)が公開している「FAO世界食料価格指数」によると、2021年12月時点の指数は前年同月比で約23%増となりました。10年ぶりの高い水準に達したと話題になっており、なかでも穀物と植物油はとくに高騰しています。
総務省が公開する「小売物価統計調査」によると、2020年はレタスやじゃがいも、ねぎやキャベツなど多くの食材の高騰が確認されています。時期によっては2倍近くの価格が付いたタイミングもあり、そのなかには日常的に消費する作物も多く含まれていました。
現状、日本は世界的に見て深刻な食料不安にこそさらされていませんが、日本は農水産物を輸入に頼っているため私たちも無関係とはいえません。
食糧価格の高騰がどれほど続くか分からないため「なぜ食糧高騰が起こっているのか」を理解しておくことは重要でしょう。
2.食糧価格の高騰を引き起こしている原因とは
食糧価格の高騰は経済成長や人口増加によっても起こりますが、2020年以降の高騰はつぎの2つが主な要因となっています。
- 異常気象
- 原油価格の高騰
これに加えて、新型コロナウイルス感染症の流行に起因する「収入減少」が食料不安の原因となっています。
食料不安とは、十分な量の食品にアクセスできない状態のことです。
冒頭でも述べた通り、2020年には少なくとも1億5,500万人が急性食料不安に陥っており、その観点からも食糧価格の高騰は深刻な問題として認識されています。
ここからは、2020年以降に起こっている食糧高騰の背景について主な要因である2つを解説します。
2-1.気候変動に伴う気温上昇や異常気象
昨今、問題視されている気候変動と、それに伴う異常気象の増加は食糧価格を高騰させる要因となっています。異常気象により作物の収穫量が激減し、需要に対する供給が不足するからです。
農林水産省が2021年に公開した「食料・農林水産業の気候関連リスク・機会に関する情報開示入門」によると、気候変動は具体的に以下の影響をもたらすようです。
項目 | 危惧される影響の一例 |
水稲 | 高温による品質の低下 |
畜産 | 高温による乳用牛の乳量・乳成分・繁殖成績の低下 |
果樹 | 着色不良や日焼け、発芽不良の発生 |
参考:農林水産省「食料・農林水産業の気候関連リスク・機会に関する情報開示入門」
また、気候変動は海外でも深刻な食糧問題を引き起こしています。
マダガスカルでは過去40年のうち、もっとも厳しい長期的な干ばつが起こっており、数十万人が飢饉の可能性にさらされています。
そしてWFP事務局長は、マダガスカルで起こっている食糧不安も気候変動によりもたらされた状況だと指摘しました。以下の引用文は、WFPの記事内に記載されたWFP事務局長の発言です。
マダガスカルでは連続して干ばつが発生しており、コミュニティは飢餓の危機に瀕しています。家族は苦しみ、人々は深刻な飢えですでに亡くなっています。これは戦争や紛争のせいではなく、気候変動によるものです。
食糧価格の高騰が需要に対する供給の不足によって起こることを考えれば、気候変動に伴う異常気象の多発を「高騰の主因の1つ」と判断することも納得していただけるのではないでしょうか。
2-2.原油価格の高騰
新型コロナウイルス感染症の流行による原油の需要激減により、原油価格は2020年4月に暴落しました。しかしワクチン接種などにより世界の経済状況が回復し、原油の需要が瞬く間に拡大した結果、需給バランスが崩れて高騰が起こってしまったのです。
原油価格が高騰すると、穀物から生成される「バイオエタノール」が原油の代替品として需要を高めるため、食糧となるはずだった穀物を燃料の生産に充てることとなります。結果、穀物の価格が高騰します。
また、食糧輸送時の燃料にかかるコストは原油価格と密接な関係にあるため、これらの理由が合わさり原油価格に比例して食糧価格が高騰しているのです。
3.食糧問題の解消に向けて私たちにできること
食糧価格の高騰は複数の要素が絡み合って起こっており、簡単に解決できる問題ではありません。
しかし、価格高騰が起こっている事実を知り、それを機にさまざまな食糧問題に気を配って行動に移すことはできます。
価格高騰を含めたあらゆる食糧問題に対し、私たちにできることは何があるのでしょうか。ここでは、2つの切り口から「私たちにできること」をご紹介します。
3-1.食品ロスの最小化
食糧価格の高騰や作物の収穫量減により、食べ物へアクセスできない地域があらわれている一方、いまなお世界では膨大な量の食品ロスが起こっています。
2021年に公開された「DRIVEN TO WASTE:GLOBAL FOOD LOSS ON FARMS」では、世界の食品ロスの総量が年間25億トンであると示されました。25億トンは、全食品生産量の40%近くに相当します。
日本でも年間570万トンの食品ロスが起こっており、国民1人あたり年間約45kgを廃棄している計算になります。1日あたりのロス量に直すと約124g/日となり、これは茶碗約1杯の米に相当する量です。
このような現状に向き合い、すぐに始められる行動としてつぎの2つが挙げられます。
食品は買い過ぎず早めに消費する
生鮮食品の購入後、調理しないまま保管する期間が長引いたために食品が傷んだりカビが生えたりすることがあります。
その多くは、一度に大量に買い込んだため消費が追い付かなかったり、古いものを消費するまえに新しく食品を買い足してしまったりと、必要分を超えた「食品の買い過ぎ」によるものです。
- 少なめに買って購入頻度を上げる
- 保存期間が長い食品を選ぶ
- 冷凍保存を活用する
対処方法はいろいろとありますが、少なめに買って早めに消費し、購入頻度を上げる方法がもっとも確実です。
外食時は注文し過ぎず、持ち帰りを検討する
食品の買い過ぎと同じように、外食時の「注文し過ぎ」も食品ロスを減らすとき重要なポイントです。
一度にまとめて注文するのではなく、確実に食べられると判断した量を注文し、足りない分を追加注文する流れにすれば食べ残しを減らせます。
どうしても食べられず残してしまった料理に関しては、提供者側に許可を取って持ち帰ることを検討してみてください。すでに国内チェーンでは「持ち帰りパックをご用意できます」と表記している飲食店も複数あり、食品ロスを減らすため具体的な取り組みを始めているケースもあります。
ただし、時間が経過すれば雑菌が繁殖する原因となるため、帰宅後に十分な加熱を施したり、持ち帰る料理を厳選したりといった工夫が大切です。また、持ち帰りを禁じている飲食店がある点にもご注意ください。
3-2.温暖化を抑えるための取り組み
地球温暖化の進行を抑えれば気候変動は緩和され、結果として異常気象による作物収穫量の減少を避けることにつながります。
温暖化対策と呼ばれる取り組みはいくつもありますが、身近なところでは「省エネ設備の導入」や「再エネ普及への参画」が挙げられます。地球温暖化を引き起こす二酸化炭素は、発電に伴う火力発電所の稼働による発生割合が大きいからです。
省エネ設備を導入する
家電は年々進化しており、より少ない電力で効率良く稼働する製品が登場しています。
以下は、環境省が運営しているCOOL CHOICEが公開した「省エネ家電の導入による省エネ効果」を示した画像です。
出典:COOL CHOICE「省エネ家電に買換えよう」
既存の家電製品に古さを感じたり、より省エネ性能の高い製品に関心を抱いたりした際には、ぜひ電力消費量の少ない家電を導入してみてください。 なお、省エネの取り組みは、お金のかかるものばかりではありません。ご存知の通り、つぎのような些細な意識も節電につながります。
- 照明が不要なときは消灯する
- 使わない家電はコンセントを抜く
- 服装を工夫して空調設定を抑える
健康を損ねないよう配慮しつつ、取り入れられるものから実践してみてください。
再エネ普及に参画する
石油や石炭など、多量の二酸化炭素を排出する火力発電を減らすため、昨今は再生可能エネルギー発電の普及に関心が集まっています。
個人が取り入れやすい再生可能エネルギー発電としては、自宅の屋根に取り付けるタイプの太陽光発電が挙げられます。ソーラーパネルを設置することで電力の自家消費が可能となり、化石燃料由来の電力消費を抑えられるのです。
また、資産運用や再エネ普及の一環として取り組める、少額から太陽光発電事業へ投資する手段として「太陽光発電ファンド」があります。太陽光発電に興味はあるものの、実際の運用が難しい場合には太陽光発電ファンドの運用が選択肢の1つに挙がるでしょう。
太陽光発電ファンドの概要については以下の記事で解説しています。本記事とあわせてご参照ください。
4.まとめ
異常気象による作物の収穫量減少、および原油価格の上昇を主な要因として、2020年以降は食糧価格が高騰してきました。これに加えて、新型コロナウイルス感染症に伴う収入減少により世界各地で食料不安が拡大しています。
日本では食費が家計のほとんどを占めることは珍しいため、食料不安を抱える途上国ほど深刻視されていませんが、海外では食糧にアクセスできず野生の虫や葉を食べている地域もあるのが現実です。本記事をきっかけに地球全体が抱える食糧問題にも目を向けてみてください。