不動産投資で課される税金の種類と内容を解説
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不動産へ投資する場合に必ず理解しておく必要があることが「税金」です。
不動産投資でせっかく収益があがっていても、税金がそれ以上にかかるのであれば、全体としてみた収支はマイナスになってしまうためです。
そこで、不動産投資に対して課税される税金の種類とその内容について、不動産の取得時・運用時・売却時にわけて解説します。
なお、この記事に掲載されている情報は2020年12月25日時点のものです。税金に関しては頻繁な改正がありますので、必ず最新の情報をご確認ください。
- 不動産取得時には不動産取得税や登録免許税を支払うことがある
- 不動産投資による賃料収入は、給与所得など他の所得と損益通算される
- 不動産売却時における売却益への課税では、不動産の所有期間により所得税や住民税の税率が変わる
1.不動産投資における税金の重要性
不動産投資では税金が利回りに大きく影響することがあります。
不動産投資用ローンを組む場合は特に、不動産の購入前に収支計画を立てておく必要があります。
その際には支払うことになる税金を考慮に入れて支出を見積もることになります。
このため、不動産投資ではどのような税金がかかるか、税率がいくらかといった知識が必要不可欠といえるでしょう。
2.不動産の取得時にかかる税金
不動産の取得時にかかる税金で主なものは不動産取得税と登録免許税です。
両者をあわせて「不動産流通税」とも呼びます。
2-1.不動産取得税
不動産取得税とは土地や建物を売買、贈与などによって取得したときに、取得した側(買主)に課税される地方税です。
不動産取得税は、後で説明する登録免許税と異なり、登記の有無にかかわらず課税対象となります。
不動産取得税の計算方法は次のとおりです。
取得した不動産の価格 × 税率
「取得した不動産の価格」とは固定資産税評価額を指します。
また、税率は不動産の取得日が平成20年4月1日から令和3年3月31日までであれば、土地及び住宅用の建物について3%、住宅以外の建物について4%と定められています。
不動産取得税は地方税であるため、取得した不動産の所在地を管轄する都道府県税事務所に対して、取得から30日以内に申告が必要です。
2-2.登録免許税
登録免許税とは土地や建物の所有権移転登記をする際に納める税金であり、国税です。
登録免許税の納税義務を負担するのは、登記を受ける者と定められています。
不動産売買において、所有移転登記は売主及び買主が共同で登記申請をすることになります。
このため、登録免許税は売主及び買主が共同して納付義務を負うとも考えられます。
しかし、実際の不動産取引においては、登記によって利益を受ける側である買主が登録免許税を負担することが一般的です。
不動産を取得した場合の登録免許税の計算方法は次のとおりです。
不動産の価額 × 税率
「不動産の価額」とは固定資産税評価額を指します。登録免許税の税率は、売買による所有権移転登記の場合には20%と定められています。
2-3.印紙税
不動産の譲渡に関する取引を証する契約書(不動産売買契約書)を作成した場合は印紙税の課税対象です。
印紙税の金額は契約金額に基づいて定められています。
不動産の譲渡に関する印紙税は、平成26年4月1日から令和4年3月31日までの間に作成された契約書に関して、以下の印紙税の軽減措置が講じられています。
契約金額 | 本則税率 | 軽減税率 |
10万円を超え 50万円以下のもの | 400円 | 200円 |
50万円を超え 100万円以下のもの | 1千円 | 500円 |
100万円を超え 500万円以下のもの | 2千円 | 1千円 |
500万円を超え 1千万円以下のもの | 1万円 | 5千円 |
1千万円を超え 5千万円以下のもの | 2万円 | 1万円 |
5千万円を超え 1億円以下のもの | 6万円 | 3万円 |
1億円を超え 5億円以下のもの | 10万円 | 6万円 |
5億円を超え 10億円以下のもの | 20万円 | 16万円 |
10億円を超え 50億円以下のもの | 40万円 | 32万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 | 48万円 |
出典:国税庁HP
印紙税は課税対象となる契約書に印紙税相当額の収入印紙を貼付し、割印を押すことによって納付した扱いとなります。
3.不動産の運用中にかかる税金
不動産を購入後、当該不動産を賃貸している間にも税金の支払いが必要です。
賃料収入に対して課税される税金としては、不動産の所有者が個人の場合には所得税や住民税があります。
また、不動産を保有していること自体に対して課される税金として固定資産税及び都市計画税があります。
3-1.所得税
不動産から得られる賃料収入は「不動産所得」として所得税の課税対象となります。
課税対象となるのは、厳密には賃料収入全体から経費等を差し引いた所得額です。
サラリーマンの不動産投資では、給与所得と不動産所得の関係が気になるところでしょう。
不動産所得は、他の所得と合算して課税される総合課税です。このため、給与所得など他の所得と損益通算されることになります。
よく知られているとおり、所得税は所得額に比例して税率が上がる累進課税です。
したがって、不動産所得と給与所得の合算額によっては想定外に所得税額が増える可能性があります。
反対に、不動産所得における赤字は給与所得と通算することができます。
ただし、これを利用した節税については、最後に説明するように注意が必要です。
3-2.住民税
住民税は、課税所得に対して一律10%の税率です。
毎年1月1日時点における住民票所在地の自治体で課税されます。
不動産所得は、所得税と同様に住民税の課税対象になります。
3-3.固定資産税及び都市計画税
固定資産税とは、毎年1月1日時点で不動産を所有する者に課される地方税です。
また、都市計画税とは、都市計画法の市街化区域内にある不動産の所有者に課される地方税です。
固定資産税と都市計画税は一緒に徴収されるため、両者をあわせて「固都税」と呼ぶことがあります。
固定資産税の計算方法は次のとおりです。
課税標準額 × 1.4%
課税標準額は、建物の場合には固定資産税評価額と一致するのが通常です。
ただし、土地の場合には軽減措置などの適用により、固定資産税評価額と課税標準額は一致しないため注意が必要です。
3-4.消費税
個人で不動産投資をする場合には、投資対象となる不動産は居住用建物であることが大半です。
居住用建物の家賃収入については消費税の課税対象となりません。また、賃貸借契約時に借主から受領する礼金にも消費税はかかりません。
これに対し、事務所や店舗として利用する場合には建物の家賃収入は消費税の課税対象となります。
また、住宅に付随するもの以外の駐車場代についても消費税が課されます。
居住用の建物の一部に事務者や店舗があり、消費税の課税対象となる売上があっても、消費税を実際に納付する義務を負うのは前々年の課税売上高が1,000万円を超える事業者のみです。
したがって、個人投資家による不動産投資では消費税の課税対象となることは少ないといえます。
ただし、2023年に導入が予定されているインボイス制度(適格請求書等保存方式)による影響を受ける可能性がありますのでご留意ください。
4.不動産の売却時にかかる所得税・住民税
不動産を売却した際に売却益がある場合には課税対象となるため注意が必要です。
ポイントは、賃料収入と異なり給与所得など他の所得との損益通算が行われない「分離課税」であること、不動産の所有期間によって適用される税率が異なることです。
4-1.税額の計算方法
所得税と住民税の税額を計算するためには、まず課税対象となる譲渡所得を以下の計算式により算出します。
譲渡所得 = 譲渡価額 − (取得費 + 譲渡費用) − 特別控除額
譲渡価額(不動産の売却により得た収入)から差し引く「取得費」とは、売却した土地や建物の購入代金や購入時に支払った仲介手数料などの合計額です。建物の場合には、減価償却費相当額を控除した金額を取得費とします。
また、「譲渡費用」には不動産の売却のために直接必要となった仲介手数料や測量費などの費用のほか、立退料や土地上の建物の取り壊し費用などが含まれます。
「特別控除額」とは一定の要件を満たす場合に控除が認められる金額です。
例えば自分の居住用のマイホームを売却した場合、最大3,000万円の控除が認められるなどの特例があります。
このようにして計算された譲渡所得は、上でも述べたとおり、給与所得など他の所得と通算されることなく課税対象となります。
これが「分離課税」です。
4-2.短期譲渡所得と長期譲渡所得
所得税や住民税の最終的な税額は、課税所得に税率を掛けて算出します。
不動産の売却に関して適用される税率は不動産の所有期間によって異なります。
土地や建物を売却した年の1月1日時点で、その土地や建物の所有期間が5年を超える場合は「長期譲渡所得」です。
これに対し、所有期間が5年以下であれば「短期譲渡所得」になります。
長期譲渡所得と短期譲渡所得のそれぞれに適用される税率は次の表のとおりです。
区分 | 所有期間(1月1日時点) | 所得税率 | 住民税率 |
長期譲渡所得 | 5年を超える | 15% | 5% |
短期譲渡所得 | 5年以下 | 30% | 9% |
※国税庁HP掲載の表をもとに作成
長期譲渡所得と短期譲渡所得とでは、税率が2倍程度異なることがわかります。
したがって、不動産投資において将来的に不動産の売却を視野に入れている場合、どのタイミングで売却するかは非常に重要です。
もっとも、「5年以上所有してから売却すればいい」という単純な話ではありません。
バブル崩壊やリーマンショックのような急激な景気後退局面では、5年以上経ってから売却すると売却価格が大きく下落していることがあるためです。
ここに不動産投資の難しさがあるともいえます。
5.不動産投資を利用した節税に注意
不動産投資において「不動産所得」となる賃料収入は、給与所得など他の所得と損益通算ができるという話がありました。
この制度を利用して、不動産投資で出た赤字を給与所得と通算することで給与所得の税金をおさえる、という節税をすすめられるケースがあります。
しかし、このような不動産所得の赤字を利用した節税手法が意味を持つのは、現時点では減価償却の仕組みを利用したものだけです。
不動産投資において、交際費などの経費を支出することで意図的に赤字にして給与所得の節税を図ることを「不動産投資による節税」といわれることがあります。
しかし、この手法では現実の支出が伴っており、経済的にみると合理性がありませんので注意が必要です。
6.まとめ
不動産投資では「不動産流通税」など、不動産取引に特有の税金もあります。
このため、不動産投資を始める前に税金の種類や想定される納税額などを十分に見積もっておかないと、想定外に税金の支払いが発生する可能性があります。
税金は現金一括払いが原則のため、納税時期には納税額に相当する現預金を手元に準備しておくことが必要です。
このように、不動産投資では税金を含めたキャッシュフローを綿密に計算しておくことが重要となります。